2015年度の国外居住地別のレンタサイクル利用実績は(表1)は総計9,388でアジアが4,140でトップ、続いて3,142のヨーロッパ、1,377のアメリカであった。
表1 平成2015年度の国外居住地別のレンタサイクル利用実績
地域
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利用者数
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アジア
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4140
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アフリカ
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4
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アメリカ
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1377
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オセアニア
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725
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ヨーロッパ
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3142
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総計
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9388
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出典:筆者作成
しまなみ海道サイクリングの誘客のためのプロモーションイベントは、ジャイアント社や同社が拠点を置く台湾と連携しておこなわれている(表2)。
表2 プロモーションイベントの実績
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プロモーションイベント
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2012年4月
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JR今治駅構内に「ジャイアントストア今治」がオープン
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ジャイアントストア初のレンタサイクル開始
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2012年5月
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GIANT社の劉会長や台湾等の自転車関係者やメディアが瀬戸内しまなみ海道を訪れたサイクリング交流イベント
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*イベント以前に中村愛媛県知事が台湾の劉会長を訪問
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2014年10月
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台湾・日月潭サイクリングロードとの姉妹自転車道協定を締結。サイクリングを通じた交流促進をはかる。
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出典:筆者作成
自治体によるプロモーション活動は愛媛県、広島県、尾道市が実施し、対象地域は東アジアや東南アジア、ヨーロッパ向けに行われている(表9‐8)。
表3 自治体のプロモーション活動
自治体
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内 容
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愛媛県
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2013年からインドネシアで誘客戦略を開始
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ガルーダ・インドネシア航空等と連携し、旅行会社との調整やムスリム受入体制の強化
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広島県
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フランスやオーストラリアの現地メディアやサイクリング団体を招請。サイクリングの魅力PR
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尾道市
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韓国・釜山国際観光展への出展、チャガルチ祭に参加
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フランス・パリで開催された「広島フェア」で、インバウンドプロモーション
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フランスでTOP Resa2015
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台湾で2015新・日本旅遊節
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フィンランドで北欧旅行伯
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出典:筆者作成
Webサイトによるプロモーションの状況は、5つの民間団体が運営するそれぞれのサイトで日本語の他に、中国語、英語、韓国語などの多言語のページが設けられていた(表4)。
表4 Webサイトによるプロモーションの状況および言語
Webサイト名/運営主体
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日
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中
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英
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韓
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仏
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■SHIMAP
瀬戸内しまなみ海道振興協議会
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○
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○
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○
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○
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■おのなび
一般社団法人尾道観光協会
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○
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○
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○
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○
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○
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■しまなみ自転車旅の宿
NPO法人シクロツーリズムしまなみ
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○
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■おいでや今治
公益財団法人 今治地方観光協会
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○
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■ONOMICHI U2
株式会社Onomichi U2
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○
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○
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○
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出典:筆者作成
紙媒体によるプロモーションの状況は、2つの組織が日本語の他に英語、中国語(繁体版)(簡体版)、韓国語などにてパンフレットを発行していた(表5)。
表5 紙媒体によるプロモーションの状況
媒体名
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発行所
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言語
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しまなみ海道
サイクリングマップ
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瀬戸内しまなみ海道振興協議会
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日本語
英語
中国語(繁体版)
中国語(簡体版)
韓国語
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輪行でサイクリストの聖地へ
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愛媛県今治市
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日本語
英語
中国語(繁体版)
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出典:筆者作成
言語サービスによるプロモーションの状況は、観光案内所や渡船、手荷物預かり業者や宿泊施設などで主に英語によるプロモーションが実施されていた(表6)。
表6 言語サービスによるプロモーションの状況
対象
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該当事業者
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内容
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言語
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観光案内所
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尾道観光協会
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英語での観光案内が可能
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英語
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交通(渡船)
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尾道渡船
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英語が話せる船員が対応
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英語
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手荷物預かり
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ヤマト
運送
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ポートターミナル内受付には英語対応可能な職員を配置
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英語
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宿泊
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各宿泊
施設
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英語が対応可能なホテル・旅館が一部と旅館によっては台湾語やフィン語も
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英語他
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観光案内音声ペン
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尾道観光協会
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専用マップをタッチすると多言語案内がある
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日本語
英語
韓国語
中国語
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出典:筆者作成
まとめ
しまなみ海道サイクリングの現状について、本節ではしまなみ海道の広島県側の拠点である尾道市を中心に調査・分析をおこなった。景色に魅了され訪れるサイクリストの他、有料だった橋の通行料が無料化されたことが、しまなみ海道を利用するサイクリストが増加したことにつながっていることがわかった。また、しまなみ海道を利用するサイクリストには、自身の自転車を(持ち込み)利用する者とレンタサイクルを利用する者との2種類があることがわかった。観光客数増加を考えた場合、自転車を持ち込む観光客や自転車を持ち込まない観光客へのプロモーションや事業実施が必要であると考える。
しまなみ海道の広島県側の起点となる尾道市では、しまなみ海道を利用するサイクリストを増やすためにレンタサイクル事業やしまなみサイクルオアシス事業、しまなみ島走レスキュー事業などの様々な事業を実地していることがわかった。またスタンプラリーやファンライドなどのイベントも実施しているが、これらのイベントの参加者が年々増加傾向にあることがわかった。これらの取り組みの背景の一つに、2014年に尾道市が定めた「尾道市まち・ひと・しごと創生 総合戦略」が影響していることがわかった。今後は更なるニーズの発掘と課題の解決による事業の継続性が求められると考える。これらの事業も外国人観光客を見据えて多言語対応の方法を検討すべきであると考える。
次に、プロモーションについては、まず、レンタサイクルの利用実績から年間9000人を超える外国人が尾道市を訪れておりその4割がアジアから、3割がヨーロッパからであることがわかった。今後の市場成長を見据え東南アジアへの注力や、それに伴うイスラム教など各種宗教に対応する受け入れ体制(ハラル料理や礼拝所)を設ける必要があると考える。プロモーションのイベントとして、台湾に拠点を置く自転車企業「GIANT社」が積極的に協力し行われており、台湾との交流が行われていることがわかった。GIANT社の劉会長は積極的に日本各地で支店を出店する際に出店先の自治体の首長とサイクリングするなどのイベントを実施しており協力的であるため、さらに自治体としても同社と連携して台湾からの誘客を図ることが期待できる。自治体が行うプロモーションでは愛媛県、広島県、尾道市がおもに東・東南アジア、ヨーロッパ向けのプロモーションを行っていることがわかった。ヨーロッパでのプロモーションを行っているが選択と集中を考えると東・東南アジアに注力することが良いと考える。Webサイトによるプロモーションでは民間団体が中国語、英語、韓国語を中心に多言語ページを設けていることがわかった。Webサイトはホームページが中心となっているが、今後はFacebookやTwitter、InstagramなどのSNSを活用したプロモーションが必要であると考える。紙媒体によるプロモーションでは中国語、英語を中心に多言語のパンフレットが作成されており、特に中国語では繁体版と簡体版による作成されていることがわかった。紙媒体は特に市内の公共施設や民間施設に配置されているのでレンタサイクル利用者など気軽にサイクリングを楽しみたい層のプロモーションには効果的であろう。
最後に、言語サービスについては、主に英語によるサービスが中心であった。これはスタッフとしてそれぞれの言語を母語とする人材を雇用することが難しい現状の結果だと考えられるが、更なる観光客の誘客を考えた場合多言語対応のアプリの活用や人材の配置を検討する必要がある。