2024年12月20日金曜日

4-1-6 サイクルツーリズムにおける外部性

 サイクルツーリズムが行われることで、地域にとって+の影響を及ぼす場合や、-の影響を及ぼす場合がある。このような影響について「外部性」という考え方がある。

 外部性とは、ある経済主体の活動が市場を通さずに、直接別の経済主体の環境(家計であれば効用関数、企業であれば生産あるいは費用関数)に影響をあたえることである(外部効果ともいう)。外部性のうち、他の経済主体に悪い影響を与える外部性を外部不経済と呼び、良い影響を与える外部性を外部経済と呼んでいる(図1)。経済活動における外部性は、市場が失敗する代表的な例である。

 外部不経済の典型的なものとしては公害がある。1960年代の高度経済成長期には経済活動が活発になるにつれて、工場からの廃棄物が周囲の環境に悪影響を与えて、公害問題が顕在化した。また、自動車からの騒音や排気ガス、たばこの煙、ごみの焼却で発生するダイオキシンなどによる健康被害というケースもある。さらには、近所でのカラオケ、ピアノ、ペットなどの生活騒音や暴走族による交通騒音など、生活に密着した公害も多い。最近では二酸化炭素やフロンガスの蓄積、酸性雨など地球規模での環境汚染対策、地球温暖化問題も、人類が直面する重要な課題になっている。

 しかし、ある人の経済活動が他の人々の利益になるような外部効果も存在する。近所の家で立派な庭があれば、周りの住民もそれを借景として楽しむことができる。あるいは、果樹園の生産者にとっては近くに養蜂業者がいると、果物の成長にプラスになるだろう。義務教育もこのような外部経済効果をもっている。誰でも読み書き・算術ができることが、経済活動の円滑な綱運営にプラスに働くからである。最近では、情報通信のネットワークが経済活動でも重要な機能を果たしているが、このネットワークも外部経済効果の高い財である。

図1 外部性
出典: 井堀利宏[2015]『基礎コース 公共経済学 第2版』p90より筆者作成

 サイクルツーリズムにおける外部性としては、外部経済においては二酸化炭素排出量の軽減(温暖化軽減)、地元住民にとってもおいしい空気(排出ガスが出ない)、シティプロモーション、シビックプライドの創出、社会保障費の軽減、サイクリング文化の醸成がある。外部不経済では、自転車交通量の増加(自動車の交通のしにくさ)、けが人の増加(救急車の出動、病院の利用者増)、ごみのポイ捨て(生活環境への影響)、交通事故増、域外者が侵入することによる住民感情への不安などがある(表1)。

サイクルツーリズムを地域で推進するにあたっては、このような外部経済、外部不経済といった外部性を念頭に置きながら環境を整備していくことが求められる。

表2.サイクルツーリズムにおける外部性

外部経済

・二酸化炭素排出量軽減(温暖化軽減)

・地元住民にとっておいしい空気(排出ガスがない)
・シティプロモーション
・シビックプライドの創出

・社会保障費の軽減

・サイクリング文化の醸成

外部不経済

・自転車交通量の増加(自動車の交通のしにくさ)
・けが人の増加(救急車の出動、病院の利用者増)
・ごみのポイ捨て(生活環境への影響)
・交通事故増

・域外者が侵入することによる住民感情への不安

出典:筆者作成

引用参考文献
 井堀利宏[2015]『基礎コース 公共経済学 第2版』

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