2024年12月20日金曜日

4-1-5 財としての地域資本を活用したサイクルツーリズムインフラ

 サイクルツーリズムにおいて、自転車自体は私的財であるし、走行する道路はじめ様々な公共財がインフラとして存在するなど、様々な財によって成り立っている。本節ではサイクルツーリズムにおける財について論ずる。

 まず、公共財と私的財について概説する。通常の財を私的財と呼ぶ。表1が示すように、公共財には私的財とは異なる性質がある。政府はある特定の人だけを対象として、公共サービスを限定的に提供することはできない。ある特定の人を、例えば受益に見合った負担をしていないからという理由で、その財・サービスの消費から排除することが技術的、物理的に不可能である。その社会に住む人なら誰でもその公共サービスを受けることができる(排除不可能性)。また、ある人がその公共サービスを消費したからといって、他の人の消費量が減るわけでもない(消費の非競合性)。公共財とは通常、消費における非競合性と排除不可能性から定義される。

 消費における排除不可能性と非競合性は、公共財を特徴づける2つの大きな性質である。完全にこの2つの性質が成立する公共財は、純粋公共財と呼ばれる。こうした公共財は、国民がすべて等量で消費している。一国全体の防衛や治安、防災、伝染病などの検疫などはこの例である。上の2つの性質を近似的に満たすものは、公共財と考えることができる。わかりやすくいいかえると、その支出が特定の経済主体だけでなく、他の人々にも便益を及ぼすような財は、広い意味で公共財と考えられる。

 また、ただ乗りとは、負担をともなわないで便益を受けることである。通常の私的財であれば、市場価格という対価を支払わないかぎり、その財を消費することができない。受益者が負担する原則である。排除可能だから、ただ乗りしようと思ってもできない。しかし、公共財の場合は排除が不可能であるために、たとえ負担しなくても、何らかの便益は享受できる。公共財の評価が各人で異なるときや、所得格差が拡大しているときに、このただ乗りの可能性が大きい。

 表1.公共財と私的財

公共財

私的財

排除可能性

な し

あ り

競合性

な し

あ り

ただ乗り

あ り

な し

出典:井堀利宏[2015]『基礎コース 公共経済学 第2版』p112

 次に、準公共財について概説する。純粋公共財と私的財との中間的な性質をもつ財が、準公共財である。具体例として、街灯を想定しよう。複数の人々がいるとし、街灯はいずれかの個人の家の前に設置されるものとする。設置された家の前での明るさを1とすると、この街灯が他人の家に及ぼす明るさが問題となる。これが0であれば、他人の家に何ら便益を及ぼさない場合には、街灯は私的財である。逆にこれが1であれば、どこの家にも同じ明るさを及ぼす場合には、街灯は純粋公共財である。さらに、これが0と1のあいだであれば、他人の家に多少の明るさは及ぼすけれども、自らの享受する明るさほどでもない場合には、この街灯は準公共財とみなされる。表2‐3は純粋公共財と準公共財を比較している。

表2.純粋公共財と準公共財

純粋公共財

準公共財

意味

排除不可能性、非競合性が完全に成立

排除不可能性、非競合性がある程度成立

防衛費、基本的な経済秩序の維持費用

地域の公共資本、公園

出典: 井堀利宏[2015]『基礎コース 公共経済学 第2版』p125

 準公共財には、便益を特定の個人のみに限定すること自体は無理だけれども(排除不可能性)、便益の程度がそれほど大きくない公共財と、便益を限定すること自体は可能であるが、ある人の消費が別の人の消費を妨げない(非競合性)性質をもつ公共財の2つに分けられる。たとえば、高速道路には排除可能性はあるが、混雑していない限り、非競合性はない。したがって、準公共財の世界では、自発的な供給メカニズムを前提にしても、ただ乗りする人は限定される。私的財に近い性質をもつので、ある程度、受益者負担の原則が適用されるからである。
 次に地方公共財(クラブ財)について概説する。ある特定の地域に便益が限定されるような公共財は、「地方公共財(=クラブ財)」と呼ばれる。図書館や公園などは、ある一定の範囲の近隣居住地域に住んでいる住民にとっては純粋公共財であるが、遠くに住んでいる住民には利用するのにコストがかかりすぎる。特定の地域に住むためには、その地方の地方税などの負担が必要となる。逆に、そうした負担をしてそこに住んでしまえば、その地域内での公共サービスは排除されることなく利用できて、かつ、それほど競合性もない。準公共財=地方公共財はこのような性質をもつ。
 以上の概説を踏まえ、しまなみ海道サイクリングを事例にサイクルツーリズムの財について述べる。サイクルツーリズムの走行環境は様々な財によって構成されている(表3)。
 純粋公共財においては走行中に視野に入ってくる海、山、空、島、橋などの景色や、走行するための車道、歩道、自転車道がある。私的財としては宿泊するためのホテルや民宿、飲食店、コンビニ、レンタサイクル、タクシー、船、イベントなどがある。クラブ財としては通行料が有料時の橋がある。コモンズとしてはサイクルオアシス、橋(無料時)、混雑時の道路がある。
 このようにサイクルツーリズムの走行環境は様々な財により構成されていることから、これらの財の特徴を踏まえた環境作りが求められる。

表3.しまなみ海道サイクリングにおける財
出所:筆者作成

引用参考文献
井堀利宏[2015]『基礎コース 公共経済学 第2版』

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