2016年12月、自転車活用推進法が施行された。この法律は、これまでの規制を主眼とした法律ではなく、積極的に自転車の利用を促進する理念法として制定されたものである。これにより、2018年6月には自転車活用推進計画が閣議決定され、国が地方自治体、企業、民間団体と連携して自転車の活用を進める「GOOD CYCLE JAPAN」という取り組みが開始された。この取り組みは「環境」「健康」「観光」「安全」の4つの分野における自転車の利活用を推進し、日本社会において自転車を利用する「しあわせの良い循環」を作ることを目指している。
まず、サイクル都市環境の整備について述べる。サイクル都市環境には4つの目標が掲げられている。第一に、街と自転車が共生する安全でやさしい都市環境の創出である。欧米の自転車先進国では、自転車専用の通行空間が整備され、公共交通機関との連携も進んでおり、日本でもこうした交通手段としての自転車利用を可能にする環境整備が進められている。第二に、誰もが安全に走れる自転車専用道路の整備である。全国の地方公共団体に対し、国土交通省が自転車利用環境の整備支援を行っており、自転車車線などのインフラ整備が進められている。第三に、環境問題や渋滞問題の解決を目指すシェアサイクルの普及である。自動車から排出されるCO2削減のためにも、自転車利用が推進され、全国的にシェアサイクルが導入されているが、さらなる利用拡大を図るため、公共交通機関との接続強化やサイクルポートの設置が求められている。これに関連して、具体的な取り組みとして自転車通行空間の整備推進、鉄道駅周辺へのサイクルポート設置の推進などが進行している。
次に、サイクル健康について述べる。サイクル健康には5つの目標がある。第一に、自転車の日常利用やサイクルスポーツの振興による健康社会の実現である。特に、高齢者の健康維持や生活習慣病の予防に、自転車は負担の少ない運動手段として有効であり、自転車利用の増加が日本人の健康維持に寄与することが期待されている。第二に、サイクルスポーツの普及に不可欠な競技施設の整備である。競技人口の増加に対応するために、国際規格に合致した施設の整備や、身近な練習環境の充実が進められている。第三に、安全に自転車を利用できる環境づくりである。特に、競技関係者の協力を得て、子供たちを対象とした体験イベントが開催されるなど、安全なサイクリング環境の提供が進行中である。第四に、自転車がもたらす身体的・精神的健康効果の促進である。自転車は膝や足への負担が少ない有酸素運動であり、心肺機能や筋力の向上、生活習慣病予防、健康寿命の延伸に寄与するとされる。第五に、自転車通勤を推進し、国民の健康増進を目指すことである。増加する自転車通勤者に対しては、駐輪場の問題解決など、企業側の対応も求められており、広報活動を通じて制度見直しが進められている。
続いて、サイクル観光について述べる。サイクル観光には2つの目標が掲げられている。第一に、サイクルツーリズムを推進し、日本を観光立国へ導くことである。訪日外国人の増加に伴い、体験型観光への関心が高まっている。日本各地で自転車を活用した観光地域づくりが進行中であり、交通機関におけるサイクリスト向けサービスの充実や、走行環境の整備が進められている。第二に、日本型サイクルツーリズムの確立である。欧州で開催される「ツール・ド・フランス」などの国際大会が観光客を惹きつけるように、日本でも国際的なサイクリング大会を開催し、観光資源としての自転車利用を広げるための支援が進められている。サイクリストが快適に走行できるサイクリングロードの整備や、交通機関との連携が図られている。
最後に、サイクル安全について述べる。サイクル安全には4つの目標がある。第一に、自転車事故のない安全で安心な社会の実現である。2017年における自転車乗用中の死亡事故の多くは、自転車利用者の法令違反が原因であり、交通ルールの周知徹底が求められている。今後は「自転車安全利用五則」などを活用した交通ルールの周知、自転車運転者講習制度の充実、ヘルメット着用の促進などが進められている。第二に、自転車の点検整備の重要性を訴求することである。自転車の整備不良が原因となる事故が多いため、定期的な点検整備の必要性が周知されている。第三に、「自転車安全利用五則」を活用して通行ルールの認知を図ることである。多くの利用者が自転車の通行ルールを理解していない現状に対応するため、ヘルメット着用の重要性も含めた広報活動が行われている。第四に、交通安全に関する教育の充実を目指すことである。学校での交通安全教育にはシミュレーターの活用や事故再現型の体験教室が取り入れられ、今後もさらに内容の充実が図られている。
このように、環境、健康、観光、安全の4分野にわたる自転車活用推進計画に基づき、持続可能で安全、健康的な自転車社会の実現が目指されている。
引用参考文献
国土交通省公式サイト,https://www.mlit.go.jp/road/bicycleuse/good-cycle-japan/ ,(2021年10月10日閲覧)
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