2024年11月5日火曜日

3-1-5 観光システムと構成要素

 観光システムは図1のように観光主体の欲求と行動が観光客体に働きかけ、満足を得ることで成立する。その満足度を高めるのが観光事業である。それらの複合的な関係性を通して観光行政が観光促進や過度な開発に対して規制を加えている。白土ら(2015)は観光主体、観光客体、観光事業、観光行政としてその関係と具体的な内容を示している。

観光の構成要素としてまず挙げられるのは観光を行う主体、すなわち観光客(観光主体)である。観光客は、自分が欲するままに観光に出かけられることはまずない。個人的な時間、所得の制約により、行こうとしている観光目的地に行けないことが多々ある。また社会情勢、特に災害、戦争・紛争、疫病等や為替レートの急激な変動によって旅行が制約されることが出てくる。

 次に、観光客の多様な欲求を喚起したり、満足させたりしてくれる対象が、観光目的地であり観光対象である観光客体である。観光対象は魅力的な観光資源や観光施設を指す。観光資源は、自然観光資源と人文観光資源に分けられ、それぞれはさらに細分類させるように、観光対象をその成分・性格などによって区分することが可能である。観光資源は国際的に観光客を引きつける世界遺産をはじめ、観光市場が広域にわたる国立公園のユニークな自然景観や国宝級の建造物等が含まれる。また観光施設には観光対象施設や観光利用施設がある。前者は東京ディズニーリゾートやUSJ、そしてスポーツ施設がその例である。後者はホテル・旅館、レストランのほか、観光目的の交通機関などがある。観光は、観光客という観光主体と、観光対象あるいは観光目的地(観光客体)が結びつく行動である。そして観光主体たる観光客は、みずからが選好した観光対象あるいは観光目的地に対する行動を起こし、その結果満足が得られることを期待している。

 次に、観光事業とは、観光関連の諸施設、目的地までのアクセス・交通機関、自然ないし文化観光対象について整備し、その保全、保護を図るとともに、その利用を促すことによって、経済的、文化的および社会的な効果を上げるようにする組織的な活動である。観光事業には、観光客を受け入れる施設事業にはホテル、旅館、ユースホステル、レストラン等の宿泊飲食施設が含まれる。また、ある地点から観光目的地まで移動するための施設事業には、鉄道、自動車、船舶、航空機、道路、海空港等の交通関連施設が含まれる。また、施設事業には運動施設も含まれ、運動施設には、ゴルフ場、スキー場、スケート場、テニスコート等のスポーツ、レクリエーション施設を含んでいる。施設事業に含まれる観光関連諸施設としては、温泉、公園、園地※1、環境衛生施設等が含まれている。このうち、観光媒体という場合、観光主体と観光対象を結びつける機能を果たしている交通機関そして情報は重要な役割を担っている。特に観光目的地までの空間距離および時間距離を短縮させたのは、産業革命以来の交通機関の飛躍的進歩によってである。例えば、江戸時代のお伊勢参りは江戸(東京)から片道2週間かかっていたが、現在は新幹線と近鉄線を乗り継げば3時間余りでお参り可能となっている。一方、観光情報の伝搬はマスメディア、サテライト通信、インターネットの普及で地球の裏側に存在している貴重で珍しい観光資源を潜在観光者に映像で紹介できるようになり、世界旅行に出かけるきっかけを導引している。

 最後に、観光行政(観光政策、観光促進、観光保護)についてである。観光は、基本的には観光主体(観光客)、観光客体(観光対象)、観光事業(観光媒体)の3つの要素から構成されるシステムである。しかし、観光をより活発に仕掛けるには政府、地方自治体が観光促進のための政策立案および促進策を講じなければならない。また、観光事業者の行き過ぎた開発による環境破壊を防ぐため、地方自治体は観光抑制あるいは環境保護対策を講じることが必要となっている。

図1.観光システム
出典:白土健他編著[2015]『観光を学ぶ』八千代出版,p4より筆者作成

※1 園地 1.自然公園で、公園施設を設けた区域。2.公園・庭園などになっている土地。3.律令制で、口分田(くぶんでん)のほかに、桑や漆を植えるために、私有財産として与えられていた土地。デジタル大辞泉,小学館

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