2024年12月22日日曜日

サイクルツーリズム事例:しまなみ海道サイクリング

(1)しまなみ海道サイクリングについて

 しまなみ海道(西瀬戸自動車道)は、本州四国連絡橋3ルートの中で、唯一自転車歩行者が併設されている自動車道(一般国道317号)で、総延長59.4km。広島県尾道市~愛媛県今治市までの6島を7橋で結ぶ。7橋の内6橋に自転車歩行者道が整備され、各島の周回道路と併せて総延長70kmのサイクリングロードとなっている。2014年7月には自転車通行料の無料化(令和8年3月末まで暫定)が実現し、更に多くのサイクリストが訪れている。

図1 しまなみ海道のマップ
(出所:尾道市観光課説明資料)

(2)尾道市のサイクリングに関する取り組み
1)レンタサイクル事業
1999年5月に瀬戸内自動車道「瀬戸内しまなみ海道」が全線供用開始した時に、開通記念イベントの一環としてレンタサイクル636台を有するレンタサイクルターミナルが設置された。
市内に6箇所のターミナルがあり、小径スポーツ車、クロスバイク、シティサイクル、軽快車、タンデム自転車、電動アシスト自転車を貸出している。
観光客のサイクリングロード利用として、自身の自転車を持ち込むパターンと、レンタサイクル利用のパターンがあるがレンタサイクル利用者は年々増加している。(図2)
図2 しまなみ海道レンタサイクル利用実績(平成11年~27年度)
※平成27年度は12月までの実績
(出所:尾道市観光課説明資料)

 2)しまなみサイクルオアシス事業
 しまなみを訪れたサイクリング客が気軽に立ち寄り休憩や地域の人々との交流が図れる「おもてなし」の場所として「しまなみサイクルオアシス」を地域住民の協力を得て整備した。
 整備対象・内容は、尾道市内に所在する、企業、商店、レストラン、宿泊施設、土産物店、ガソリンスタンド等を対象として、軒先や庭先、駐車場等をサイクリング客向けの休憩所として開放できる協力者を募集し、書類選考・現地調査等により「しまなみサイクルオアシス」として選定し、器材(表1)の中から、貸与する器材の種類、数量や空間デザイン等を協力者と個別に協議したうえで無償貸与する。

表1 サイクルオアシスに貸与する器具

サイクルオアシスのシンボルタペストリー

自転車スタンド 

サイクリング車用空気入れ

必要なパンフレット等の印刷物


 応募要件として、軒先・庭先・駐車場等の一角(10㎡程度以上)をサイクリング客の休憩場所として無償で開放できるもの、サイクリング客に対して市から貸与を受けた器材を無償で積極的に活用・提供できるもの、サイクリング客の要望に応じて飲み水(水道水等)を提供できるもの、サイクリング客のトイレの借用を了解できるものがある。

3)しまなみ島走レスキュー事業

 しまなみを訪れたサイクリストが怪我や自転車の故障等により島内で立ち往生した際の救援システムを構築し、しまなみの隅々まで安心して周遊できる環境を整備した。

 役割として、タクシー会社がサイクリストや故障自転車をサイクリストからの連絡により通常のタクシー料金で運搬し、自転車店はサイクリストやタクシー会社からの連絡により故障自転車を修理し、尾道市はシステムの構築及び必要な器材(自転車積載キャリー等)の貸与並びに県内外へのPRを行う。現在、タクシー会社7社、自転車店10店舗が同事業に登録している。

 4)しまなみ自転車の宿
 同事業は、サイクリストの聖地“瀬戸内しまなみ海道”を訪れるサイクリスト宿泊客の増加を図るため、自転車の安全な保管や自転車荷受け・発送取次ぎの有無など、サイクリストが宿泊施設を選択する際に重視すると思われる項目を調査・整理し、「しまなみ自転車旅の宿」として、HPやチラシなどで広く情報を発信することを目的として行っている。尾道市内を所在地とする宿泊施設が対象となっており、2014年11月現在で34施設が登録している。


2024年12月20日金曜日

5-1-1 アドベンチャーツーリズムとしてのサイクルツーリズム

  アドベンチャーツーリズム(以下AT)とは「アクティビティ、自然、文化体験の3要素のうち、2つ以上で構成される旅行」をいう(Adventure Travel Trade Associationによる定義)(図1)。もともとは1980年代に自然を活かしたアウトドア・アクティビティ観光としてニュージーランドで発達した。自然をテーマとした観光にはエコツーリズム、グリーンツーリズムなどがあるが、アドベンチャーツーリズムは、アクティビティや異文化体験が組み込まれ、「学び」より「楽しみ」を重視したレジャー性の高さが特徴である。

 ATは旅行者が地域独自の自然や地域のありのまま文化を、地域の方々とともに体験し、旅行者自身の自己変革・成長の実現を目的とする旅行形態である。“アドベンチャー”という言葉から、強度の高いアクティビティを主目的とすると連想されがちだが、アクティビティは地域をより良く知り、地域の方々との深く接する手段の一つであり、近年はハードなものより、むしろ散策や文化体験等のソフトで簡易なものが主流となってきている。

 ATは、自然や文化といった軸ではエコツーリズムやグリーンツーリズムと共通項を持つものだが、アクティビティを通じて地域の文化と自然を体験することで、自身の成長・変革と地域経済への貢献を実現することを目的とした新しい旅のあり方である。

図1.アドベンチャーツーリズムの概念

出所:ATTA HP・データ、UNWTO 「Global Report on Adventure Tourism」、国土交通省「着地型旅行の市場概要」よりJTB総合研究所作成

 また、AT顧客の消費形態として、1万米ドルの経済効果を生み出すためには、マスツーリズム(クルーズ等)では100人が必要だが、ATでは4人の来訪で達成できるとされている。つまり、ATではより環境等へのインパクトを抑えながら、経済効果を生み出すことができる。さらに、マスツーリズムでは消費額のうち、地域に残るのはわずか14%に留まるのに対し、ATの場合には実に65%が地域に残るという調査結果がでている。加えて雇用創出効果もATの方が、1.7倍大きいことも確認されている。

 サイクリングはアドベンチャーツーリズムにおけるアクティビティの一種であり、近年アドベンチャーツーリズムでは電動自転車によるプログラムが脚光を浴びている。
 緩やかなサイクリングで文化資本も自然資本も楽しめることから、アドベンチャーツーリズムとしてのサイクルツーリズムは大きな可能性を秘めている。

引用参考文献
一般社団法人アドベンチャーツーリズム推進機構公式サイト https://atjapan.org/adventure-tourism

4-1-6 サイクルツーリズムにおける外部性

 サイクルツーリズムが行われることで、地域にとって+の影響を及ぼす場合や、-の影響を及ぼす場合がある。このような影響について「外部性」という考え方がある。

 外部性とは、ある経済主体の活動が市場を通さずに、直接別の経済主体の環境(家計であれば効用関数、企業であれば生産あるいは費用関数)に影響をあたえることである(外部効果ともいう)。外部性のうち、他の経済主体に悪い影響を与える外部性を外部不経済と呼び、良い影響を与える外部性を外部経済と呼んでいる(図1)。経済活動における外部性は、市場が失敗する代表的な例である。

 外部不経済の典型的なものとしては公害がある。1960年代の高度経済成長期には経済活動が活発になるにつれて、工場からの廃棄物が周囲の環境に悪影響を与えて、公害問題が顕在化した。また、自動車からの騒音や排気ガス、たばこの煙、ごみの焼却で発生するダイオキシンなどによる健康被害というケースもある。さらには、近所でのカラオケ、ピアノ、ペットなどの生活騒音や暴走族による交通騒音など、生活に密着した公害も多い。最近では二酸化炭素やフロンガスの蓄積、酸性雨など地球規模での環境汚染対策、地球温暖化問題も、人類が直面する重要な課題になっている。

 しかし、ある人の経済活動が他の人々の利益になるような外部効果も存在する。近所の家で立派な庭があれば、周りの住民もそれを借景として楽しむことができる。あるいは、果樹園の生産者にとっては近くに養蜂業者がいると、果物の成長にプラスになるだろう。義務教育もこのような外部経済効果をもっている。誰でも読み書き・算術ができることが、経済活動の円滑な綱運営にプラスに働くからである。最近では、情報通信のネットワークが経済活動でも重要な機能を果たしているが、このネットワークも外部経済効果の高い財である。

図1 外部性
出典: 井堀利宏[2015]『基礎コース 公共経済学 第2版』p90より筆者作成

 サイクルツーリズムにおける外部性としては、外部経済においては二酸化炭素排出量の軽減(温暖化軽減)、地元住民にとってもおいしい空気(排出ガスが出ない)、シティプロモーション、シビックプライドの創出、社会保障費の軽減、サイクリング文化の醸成がある。外部不経済では、自転車交通量の増加(自動車の交通のしにくさ)、けが人の増加(救急車の出動、病院の利用者増)、ごみのポイ捨て(生活環境への影響)、交通事故増、域外者が侵入することによる住民感情への不安などがある(表1)。

サイクルツーリズムを地域で推進するにあたっては、このような外部経済、外部不経済といった外部性を念頭に置きながら環境を整備していくことが求められる。

表2.サイクルツーリズムにおける外部性

外部経済

・二酸化炭素排出量軽減(温暖化軽減)

・地元住民にとっておいしい空気(排出ガスがない)
・シティプロモーション
・シビックプライドの創出

・社会保障費の軽減

・サイクリング文化の醸成

外部不経済

・自転車交通量の増加(自動車の交通のしにくさ)
・けが人の増加(救急車の出動、病院の利用者増)
・ごみのポイ捨て(生活環境への影響)
・交通事故増

・域外者が侵入することによる住民感情への不安

出典:筆者作成

引用参考文献
 井堀利宏[2015]『基礎コース 公共経済学 第2版』

4-1-5 財としての地域資本を活用したサイクルツーリズムインフラ

 サイクルツーリズムにおいて、自転車自体は私的財であるし、走行する道路はじめ様々な公共財がインフラとして存在するなど、様々な財によって成り立っている。本節ではサイクルツーリズムにおける財について論ずる。

 まず、公共財と私的財について概説する。通常の財を私的財と呼ぶ。表1が示すように、公共財には私的財とは異なる性質がある。政府はある特定の人だけを対象として、公共サービスを限定的に提供することはできない。ある特定の人を、例えば受益に見合った負担をしていないからという理由で、その財・サービスの消費から排除することが技術的、物理的に不可能である。その社会に住む人なら誰でもその公共サービスを受けることができる(排除不可能性)。また、ある人がその公共サービスを消費したからといって、他の人の消費量が減るわけでもない(消費の非競合性)。公共財とは通常、消費における非競合性と排除不可能性から定義される。

 消費における排除不可能性と非競合性は、公共財を特徴づける2つの大きな性質である。完全にこの2つの性質が成立する公共財は、純粋公共財と呼ばれる。こうした公共財は、国民がすべて等量で消費している。一国全体の防衛や治安、防災、伝染病などの検疫などはこの例である。上の2つの性質を近似的に満たすものは、公共財と考えることができる。わかりやすくいいかえると、その支出が特定の経済主体だけでなく、他の人々にも便益を及ぼすような財は、広い意味で公共財と考えられる。

 また、ただ乗りとは、負担をともなわないで便益を受けることである。通常の私的財であれば、市場価格という対価を支払わないかぎり、その財を消費することができない。受益者が負担する原則である。排除可能だから、ただ乗りしようと思ってもできない。しかし、公共財の場合は排除が不可能であるために、たとえ負担しなくても、何らかの便益は享受できる。公共財の評価が各人で異なるときや、所得格差が拡大しているときに、このただ乗りの可能性が大きい。

 表1.公共財と私的財

公共財

私的財

排除可能性

な し

あ り

競合性

な し

あ り

ただ乗り

あ り

な し

出典:井堀利宏[2015]『基礎コース 公共経済学 第2版』p112

 次に、準公共財について概説する。純粋公共財と私的財との中間的な性質をもつ財が、準公共財である。具体例として、街灯を想定しよう。複数の人々がいるとし、街灯はいずれかの個人の家の前に設置されるものとする。設置された家の前での明るさを1とすると、この街灯が他人の家に及ぼす明るさが問題となる。これが0であれば、他人の家に何ら便益を及ぼさない場合には、街灯は私的財である。逆にこれが1であれば、どこの家にも同じ明るさを及ぼす場合には、街灯は純粋公共財である。さらに、これが0と1のあいだであれば、他人の家に多少の明るさは及ぼすけれども、自らの享受する明るさほどでもない場合には、この街灯は準公共財とみなされる。表2‐3は純粋公共財と準公共財を比較している。

表2.純粋公共財と準公共財

純粋公共財

準公共財

意味

排除不可能性、非競合性が完全に成立

排除不可能性、非競合性がある程度成立

防衛費、基本的な経済秩序の維持費用

地域の公共資本、公園

出典: 井堀利宏[2015]『基礎コース 公共経済学 第2版』p125

 準公共財には、便益を特定の個人のみに限定すること自体は無理だけれども(排除不可能性)、便益の程度がそれほど大きくない公共財と、便益を限定すること自体は可能であるが、ある人の消費が別の人の消費を妨げない(非競合性)性質をもつ公共財の2つに分けられる。たとえば、高速道路には排除可能性はあるが、混雑していない限り、非競合性はない。したがって、準公共財の世界では、自発的な供給メカニズムを前提にしても、ただ乗りする人は限定される。私的財に近い性質をもつので、ある程度、受益者負担の原則が適用されるからである。
 次に地方公共財(クラブ財)について概説する。ある特定の地域に便益が限定されるような公共財は、「地方公共財(=クラブ財)」と呼ばれる。図書館や公園などは、ある一定の範囲の近隣居住地域に住んでいる住民にとっては純粋公共財であるが、遠くに住んでいる住民には利用するのにコストがかかりすぎる。特定の地域に住むためには、その地方の地方税などの負担が必要となる。逆に、そうした負担をしてそこに住んでしまえば、その地域内での公共サービスは排除されることなく利用できて、かつ、それほど競合性もない。準公共財=地方公共財はこのような性質をもつ。
 以上の概説を踏まえ、しまなみ海道サイクリングを事例にサイクルツーリズムの財について述べる。サイクルツーリズムの走行環境は様々な財によって構成されている(表3)。
 純粋公共財においては走行中に視野に入ってくる海、山、空、島、橋などの景色や、走行するための車道、歩道、自転車道がある。私的財としては宿泊するためのホテルや民宿、飲食店、コンビニ、レンタサイクル、タクシー、船、イベントなどがある。クラブ財としては通行料が有料時の橋がある。コモンズとしてはサイクルオアシス、橋(無料時)、混雑時の道路がある。
 このようにサイクルツーリズムの走行環境は様々な財により構成されていることから、これらの財の特徴を踏まえた環境作りが求められる。

表3.しまなみ海道サイクリングにおける財
出所:筆者作成

引用参考文献
井堀利宏[2015]『基礎コース 公共経済学 第2版』

4-1-9 サイクルツーリズムにおける地域資本と経験価値に関する考察

  まず、サイクルツーリズムにおける地域資本について、ロングライドのサイクルツーリズム(しまなみ海道サイクリング70km、ビワイチサイクリング200km)とガイド付きサイクリング(飛騨古川里山サイクリング)とでは、以下の特徴的な違いが見られた。

 一点目は、しまなみ海道サイクリングとビワイチサイクリングでは4つの資本に関して資本の量(項目、記述)が同じような特徴が見られた(人的資本約5項目、物的資本12項目、自然資本4項目、文化資本5項目)。二点目はロングライドのサイクルツーリズムはガイド付きサイクリングに比べて物的資本量(項目、記述)が3倍以上ある。三点目は、ガイド付きサイクリングはロングライドサイクリングに比べて文化資本の量(項目、記述)が2倍以上ある。

 一点目、二点目に関しては、ロングライドのサイクリングコースには、トイレ・ラック・ベンチ・空気入れ・工具・給水ができるようなサイクルオアシス(サイクルサポートステーション)が整備されており、ロングライドであるがゆえに宿泊できるような宿泊施設、レンタサイクル、自転車と一緒に移動できるタクシーやサイクルトレイン、船の整備、ブルーラインや無料マップ、有名自転車店が整備されている。このことは、しまなみ海道サイクリングおよびビワイチサイクリングのいずれも、サイクリングコースが所在する自治体を中心に民間も巻き込みながらサイクリングコースの充実やサイクルツーリストの集客を積極的に行っていることが要因と考えられる。三点目に関しては、ガイド付きサイクリングは飛騨古川エリアの里山をスロースピードで走行することやガイドが飛騨古川エリアの文化資本についてガイドしながら走行することから、ロングライドサイクリングに比べて文化資本に関する様々な景観や情報がサイクリストに入ることが要因と考えられる。

 次に、しまなみ海道サイクリング、飛騨古川里山サイクリング、ビワイチサイクリングを事例にサイクリングの経験価値について検討を行った。いずれのサイクリングも5つの経験価値が含まれていることがわかった。その中でもガイド付きのサイクリングであった飛騨古川里山サイクリングが突出し、経験価値に関する記述が多かった。これは他のサイクリングと違ってガイド付きであったかどうかという点による影響が大きいものと考えられる。したがって、飛騨古川里山サイクリングと同様に、しまなみ海道サイクリングやビワイチサイクリングにも「ガイド付き」のプログラムを組み入れることでサイクリングの経験価値を増やすことができると考えられる。

4-1-8 サイクルツーリズムにおける経験価値

 本節では、しまなみ海道サイクリング、飛騨古川里山サイクリング、ビワイチサイクリングの経験価値について概説する。

 表1は、筆者が調査した3つのサイクリングの経験価値である。

 まず、しまなみ海道サイクリングにおける経験価値は、SENSE(感覚的経験価値) について、視覚では海の景色、聴覚では海・風の音、触覚では海風が肌に触れる、味覚では塩レモン、塩ソフト、柑橘、魚介の食事、嗅覚では海の香りなどがあった。FEEL(情緒的経験価値)について、大自然の中(ビル、電車などない)という非日常空間にいるという開放感、海の上・海岸線を走るという非日常性、日本の海の田舎の自然・営みに触れ合うことでの日本の価値の再認識があった。THINK(創造的・認知的経験価値)について、出発地の今治市(愛媛県)、尾道市(広島県)、島々、しまなみ海道の歴史、文化、食、気候など。海岸を走るコツなどを知ることがあった。ACT(肉体的経験価値とライフスタイル全般)について、ロングライドに対する魅力の発見、自然の中を走る魅力、民宿に泊まりながらサイクリングを楽しむという楽しみの発見、輪行の楽しみ、週末の楽しみの発見、ロングライドの達成感があった。RELATE(準拠集団や文化との関連づけ) について、サイクリング仲間とのツアー、サイクリストとの現地での交流、SNSでの交流があった。

 続いて飛騨古川里山サイクリングにおける経験価値は、SENSE(感覚的経験価値) について、視覚では日本古来の里山の景色(山、田んぼ、小川、古民家、山と空のコントラストなど)、森(木々)の香り、牛、干し柿、城下町の町並み、鯉が泳ぐ水路、店舗が、聴覚では川の流れる音、小鳥のなく声が、触覚では風が肌に触れる感覚が、味覚では飲む水・コーヒー、お土産売り場で買う現地の特産物・名物が、嗅覚では木々の香り、焚き火の香りが感じられた。FEEL(情緒的経験価値)について、自然の美しさ、空気・水の綺麗さ、都市を離れて自然の中にいるという開放感、自転車という自分のペースで楽に移動できるという自由感、日本の古来の風景に出会えるノスタルジー感などが感じられた。THINK(創造的・認知的経験価値)について、里山での暮らしに接することで気づく地元の人の自然と共存する知恵、飛騨古川の歴史、文化、食、気候などがあった。ACT(肉体的経験価値とライフスタイル全般)について、4時間のスローロングライドによる爽快感、適度な疲労感、リラックスした運動、気軽に停れることの安心感、自然の中(田舎)を走る楽しみ、休日に都市を離れ地方を訪れるという楽しみなどがあった。RELATE(準拠集団や文化との関連づけ) について、里山サイクリンググループでの一体感、SNSでの交流、地元の人との交流による自然が好きなもの同志の一体感があった。

 最後に、ビワイチサイクリングにおける経験価値については、SENSE(感覚的経験価値) について、視覚では湖岸の景色、湖岸際の山、空とのコントラスト、琵琶湖大橋とのコントラスト、自転車目線の景色、南と北で変わる琵琶湖の風景、島、湖北の水の綺麗さ、魚、鳥があった。聴覚では湖の波の音、風切る音、湖からの風があった。味覚では湖料理、地元の名物(鮒寿司)、道の駅での試食があった。FEEL(情緒的経験価値)について、日本一の琵琶湖(200km)を一周しているという優越感、長い距離を信号にあまり捕まることがなく走れるという爽快感、湖の湖岸を走るという特別感、ゴールした時の達成感があった。THINK(創造的・認知的経験価値)について、琵琶湖の自然、歴史、湖岸の人々の営み・文化、気候、湖(琵琶湖)の周りを走るコツを知ることなどがあった。ACT(肉体的経験価値とライフスタイル全般)について、200kmというロングライド、湖の周りを走ること、高低差のない道を走れること、1泊2日で走るというサイクルツーリズムの魅力などを感じた。RELATE(準拠集団や文化との関連づけ) について、サイクリング仲間とのツアー、サイクリストとの現地での交流、SNSでの交流、琵琶湖を愛する地元の人との交流、宿泊先のユースホステルでの宿泊者との交流などがあった。

    表1.サイクルツーリズムにおける経験価値

出所:筆者作成

2024年12月19日木曜日

4-1-7サイクルツーリズムにおける地域資本

本節では国内の主要なサイクリングとして、しまなみ海道サイクリング(広島県・愛媛県)、飛騨古川里山サイクリング(岐阜県)、ビワイチサイクリング(滋賀県) を取り上げ、それぞれの地域資本と経験価値について概説する。

まず、3つのサイクリングについて、概要を説明する。

しまなみ海道サイクリングについてだが、しまなみ海道(西瀬戸自動車道)は、本州四国連絡橋3ルートの中で、唯一自転車歩行者が併設されている自動車道(一般国道317号)で、総延長59.4km。広島県尾道市~愛媛県今治市までの6島を7橋で結ぶ。7橋の内6橋に自転車歩行者道が整備され、各島の周回道路と併せて総延長70kmのサイクリングロードとなっている。2014年7月には自転車通行料の無料化(令和8年3月まで暫定)が実現し、更に多くのサイクリストが訪れている。

次に、飛騨古川里山サイクリングについてだが、飛騨古川にある株式会社美ら地球(ちゅらぼし)が提供している、ガイド付きの里山サイクリングである。同サービスでは、日本人には何気ない景色である里山の風景、日本の原風景をサイクリングを通して外国人に感じてもらうというサービスである。2010年にスタートしてから、5年間で世界40数カ国の外国人がツアーを利用している。2009年に当初はレンタサイクルとしてはじめたが、ビジネスとして成立させるために付加価値を付けるために2010年からガイド付きのサービスを開始した。現在では4種類のサイングリングツアーを催行している。

最後に「ビワイチサイクリング」についてである。「ビワイチ」は、「琵琶湖一周サイクリング」の略である。周囲200kmで湖の周りなので高低差はさほどない。2009年には「輪の国びわ湖推進協議会」が設立された。ミッションとして1)普及啓発:自転車ファンを増やし正しい乗り方を広める。2)社会提案:自転車を活かす暮らし方・まちづくりを提案する。3)調査研究:自転車の使いやすい環境やツール等について研究する。4)ネットワーク活動:交通に関連する団体や個人と関係を深める。を掲げ、様々な事業に取り組んでいる。例えば「びわ湖一周認定証」である。同認定証は湖岸沿いの施設に設置されたチェックポイントを4箇所以上チェックし、申請するとヨシ紙でできた特製「びわ湖一周サイクリング認定証」と毎年色違いの「びわ湖一周サイクリング認定ステッカー」がもらえる。裏にはチェックした時分秒が記載される。2015年9月にはJR米原駅(滋賀県米原市)を自転車での「ビワイチ」の拠点にしようと、同県などでつくる「鉄道を活(い)かした湖北地域振興協議会」が、同駅でサイクリング用の自転車を貸し出す社会実験をおこなった。2016年3月にはびわ湖一周ロングライドが開催される。 

 これらの3つのサイクリングの地域資本について筆者が調査した結果が表〇である。

 しまなみ海道サイクリングにおける地域資本については、まず人的資本では、飲食店やサイクルオアシスの店員(ホスピタリティ)、地元民(ホスピタリティ)、他のサイクリスト、自転車店店員があった。物的資本では、通行手段としての橋、車道・歩道・自転車道、サイクルオアシス(トイレ、ラック、ベンチ、空気入れ、工具、給水)、ホテル・民宿、飲食店、コンビニ、レンタサイクル、タクシー(自転車搬送用など)、船、道路標識、ブルーライン、無料マップ、自転車店(ジャイアント今治、尾道)があった。自然資本では、景観(海、山、空、島)、潮風(香り、肌感覚)、波(音)、温暖な気温(温暖な時期、瀬戸内気候)がった。文化資本では、島の民家、柑橘栽培の景色、造船の景色、橋(景観)、サイクルオアシス(地元物産、名物)がった。

 飛騨古川里山サイクリングにおける地域資本について、まず人的資本では、ガイド、地元民(ホスピタリティ)、他のツアー客、物産店店員(ホスピタリティ)があった。物的資本では、自転車(クロスバイク)、車道・歩道、物産店、水路(水の流れ、鯉)があった。自然資本では、空気(美味しさ)、川・小川(景色、音)、山並みの景色、森(景色、香り)、小鳥(鳴き声、見た目)があった。文化資本では、合掌造りの古民家、干し柿、湧き水場、神社(鳥居)、水田の景色、牛舎、城下町の街並み、物産店の物産、焚火(香り、見た目)、飛騨古川駅の駅舎、寺(本光寺)があった。

 ビワイチサイクリングにおける地域資本について、まず人的資本では、ユースホステルスタッフ(ホスピタリティ)、サイクルサポートステーションスタッフ(ホスピタリティ)、道の駅の店員、他のサイクリスト、自転車店店員があった。物的資本では、道の駅、車道・歩道・自転車道、サイクルステーション(トイレ、ラック、ベンチ、空気入れ、工具、給水)、ホテル・民宿、レンタサイクル、サイクルトレイン、ショートカットクルーズ(船)、ビワイチレスキュー(タクシー)、飲食店・コンビニ、道路標識、無料マップ、自転車店(ジャイアント守山など)があった。自然資本では、琵琶湖の景色、湖岸、比良山系の景色、島々の景色(湖北)があった。文化資本では、メタセコイア並木、地元の名物(鮒ずし)、寺社仏閣(白髭神社など)、歴史遺産(彦根城など)、道の駅(地元物産、名物)があった。

表1.サイクリングにおける地域資本
出所:筆者作成

アドベンチャーツーリズム(トラベル)

 アドベンチャーツーリズム(以下、AT)とは「アクティビティ、自然、文化体験の3要素のうち、2つ以上で構成される旅行」をいう(Adventure Travel Trade Associationによる定義)。もともとは1980年代に自然を活かしたアウトドア・アクティビティ観光とし...