2024年10月29日火曜日

2-1-4 スポーツ「プログラム」としてのサイクリング

 サイクリングを「プログラム」により分類したものが表1である。ここで言うプログラムとは年に1回開催といったもの(イベント)ではなく、週に数回、月に数回、シーズンに定期的に提供されているサービスである。サイクリングによる「プログラム」は主にガイド付きツアーで、走行する環境(里山、街中、雪上、歴史的街並み)やメジャーサイクリングコースなどをめぐるツアーなどがあった(表1)。

表1.サイクリング「プログラム」による分類

出典:林恒宏・小倉哲也[2020]『サイクリングの分類に関する研究』日本産業科学学会研究論叢、p83‐88

2-1-3 スポーツ「イベント」としてのサイクリング<非競技会系>

  サイクリングを「イベント(非競技会系)」により分類したものが表1である。非競技会系イベントには楽しみ方として、散策として楽しむ、特産物(飲食物)を楽しむ、爽快感や自然の景色を楽しむ、服装を楽しむ、自然保護に貢献するなど目的に応じて楽しみ方が異なるイベントがあった。

表1.サイクリング「イベント」による分類〈非競技会系〉

出典:林恒宏・小倉哲也[2020]『サイクリングの分類に関する研究』日本産業科学学会研究論叢、p83‐88

2-1-2スポーツイベントとしてのサイクリング①<競技系>

  サイクリングを「イベント(競技会系)」により分類したものが表1である。「イベント(競技会系)」では、自転車の車種や走行場所(道路、トラック、未舗装道路、室内)の違い、やスピード、時間、得点など競い方の違いがあった。なお、東京オリンピックでは演技を競う自転車BMX(1)フリースタイル・パークが初採用されるなど競技会系イベントは広がりを見せている。

表1.自転車イベント(競技会系)の種類

出典:小倉哲也・林恒宏・今野和彦[2017]『ニセコクラシックの参加者に対する意識調査』

 また、競技会系イベントは参加対象によりトップ選手参加型、一般参加型、トップレベル選手&一般参加型があり、それぞれの大会で参加目的が異なる(表2)。

表2.ロードレースを特徴別に分類
出典:小倉哲也・林恒宏・今野和彦[2017]『ニセコクラシックの参加者に対する意識調査』

注釈
(1)BMX 直径20インチか、24インチの太い車輪が付けられた小型の競技専用自転車、およびこの自転車を用いた競技。

2-1-1 サイクリングの定義

 サイクリングとは、自転車で走行を楽しむ身体活動。散歩やハイキングのようなポタリング、1泊以上のツアー、キャンピングラン、速度を楽しむスピードサイクリング、一定距離の走行時間を競うタイムトライアル、ナイトランなどがある。(1) 

また、自転車に乗って走るのを楽しむこと。自転車の遠乗り、とある。(2) 

本書では、サイクリングを、自転車で走行を楽しむ身体活動と定義し、特に自転車の「車種」や「イベント(3)」、「プログラム(4)」、「貸し出し方法」に着眼しサイクリングの種類(カテゴリー)の分類について概説する。


注釈
(1)日本大百科全書(ニッポニカ)
(2)デジタル大辞泉,小学館, 
(3)本書では、月に1回、数か月に1回、年に1回などに行われる催し物を、「イベント」と定義する。
(4)本書では、毎週以上の頻度で行われるスポーツサービス(技能教授、機会提供)を、「プログラム」と定義する。

2-1.スポーツとしてのサイクリング

 サイクリングは余暇活動としても行われることからスポーツであるともいえる。スポーツはオリンピックやワールドカップのような高レベルの競技スポーツからウォーキングやハイキングなど運動不可の小さいものまで、また、最近ではVR(ヴァーチャルリアリティ)やeスポーツなどテクノロジーによるものまで幅広く存在する。

 スポーツの語源は、ラテン語のdeportareに由来するが、意味としては「気晴らし」「なぐさみ」などで使用されていた。その後、フランス語のdesporterや英語のdisportと語源的変遷をし、16~17世紀にはdespotやsportが使用されるようになった。

 イギリスでは、山登りから女を口説くことまで、あるいは悪ふざけまでふくまれていたらしく、「自ら楽しむ」「気晴らし」「満足」「持ち去る」「移る」「なぐさみ」「気分転換」「まじめな仕事、つらい仕事から離れる」とさまざまに解されていた。日本では、運動競技に類似した訳語は、Athletics sportsの訳語として運動会を経て、大正時代からsportsを「競技」と訳すようになった。

 スポーツには大きく分けるといわゆる競技スポーツと生涯スポーツがある。競技スポーツとはいわゆるスポーツを個人や団体同士で「競い合う」という観点から注目したものである。生涯スポーツとは人が生まれてから年を経ていく過程をおいてどのようにスポーツと関わるかという観点から注目したものである。

 競技スポーツには卓越の喜び、達成の喜び、身体の喜びなどがある。生涯スポーツにはスポーツを通じた他者との出会い、生涯にわたる挑戦と生きがいづくり、などがある。

 スポーツには様々な楽しみ方がある。例えばプレイする楽しみ、見る楽しみ、支える楽しみ、語る楽しみと調べる楽しみなどである。

2024年10月27日日曜日

15.シェアサイクルを取り巻く環境

  シェアサイクルとは、相互利用可能な複数のサイクルポートが設置された、面的な都市交通に供されるシステムである(1)。 シェアサイクルは多くの国で導入されている(表1)。日本は中国、米国に続き多くの都市でシェアサイクルが導入されている。

表1.シェアサイクルの国内外における導入状況(2019年12月末時点)

出典:「World Bike Sharing map」より筆者作成

 シェアサイクルは、海外においては1965年オランダ・アムステルダムで初めて導入された。コペンハーゲンでは硬貨のデポジットでラックを開錠・施錠するポート型のシステムが導入されたがアムステルダム同様に盗難や破壊の問題が起こった。2016年に中国においてスマートフォンによる認証で、どこでも乗り捨てが自由なポートレス型シェアサイクルが急速に増加した。世界各地に拡大し、自転車の放置や無秩序な駐輪、投棄等が社会問題となった。2017年以降、ポートレス型に対する規制が各国で導入され、規制に対応できない不適格事業者や破壊などに苦しむ事業者が各都市から撤退していった。

表2.シェアサイクルの変遷(海外)

出典:国土交通省[2020] シェアサイクルの在り方検討委員会 第1回 資料より筆者作成

 次に、日本においては1980年から公共が主導するシェアサイクルに関する社会実験がスタートした。2005年以降世田谷区においてレンタサイクルの一部を拡充して導入され全国の各都市で社会実験が導入された。2012年には江東区でコミュニティサイクルの実証実験がスタートし、2016年に千代田区・中央区・港区・江東区で区域を越えて相互乗り入れができる「広域相互利用」がスタートした。

表3.シェアサイクルの変遷(国内)









出典:国土交通省[2020] シェアサイクルの在り方検討委員会 第1回 資料より筆者作成

 次に、シェアサイクルの課題は、以下の3つがある。

 まず、シェアサイクルの公共的な交通としての位置付け、採算性に関する課題がある。例えば、シェアサイクルの公共的な交通としての位置づけや社会秩序への影響、運営事業者の撤退による影響、シェアサイクルサービス提供エリアにおける自転車通行空間、採算性などがある。また、サイクルポートの設置、案内に関する課題として、運営規模・ポート密度についてや、公共用地等へのポート設置、サイクルポートの設置場所及びポートへの案内などがある。最後に利用者の利便性に関する課題だが、都市・事業主体毎に構築・運用されるシステムに関してや、その他利用環境上の課題(交通系ICカード利用など)がある(2)


注釈

(1)国土交通省都市局による地方公共団体に対する調査

(2)国土交通省[2020] シェアサイクルの在り方検討委員会


14.シェアサイクルの仕組み

  近年、シェアサイクル(相互利用型)の普及が進んでいる。シェアサイクルとは、街の中に相互利用可能な複数のサイクルポートを設置し、利用者がどこでも自由に借りたり返却できるシステムである。シェアサイクルはコミュニティサイクルとも言う。サイクルポートAで借りてBでもCでもDでも返却可能で、面的な移動が可能である(図1)。

図1.シェアサイクルの仕組み
出典:小倉哲也・林恒宏・田村匡[2016]『レンタサイクルの今後の動向に関する一考察‐「うめぐるチャリ」を事例に‐』大阪成蹊大学紀要,pp 41‐49 

13.自治体の自転車関連施策

  全国の自治体においては国の自転車活用推進計画を受けて自治体ごとの計画の設置が進められている。ここでは特にサイクルツーリズムの拠点として注目される「しまなみ海道サイクリング」に関わる自治体として広島県、尾道市、愛媛県、今治市を、「ビワイチサイクリング」に関わる自治体として滋賀県および守山市を取り上げる。

 まず、しまなみ海道サイクリング関連自治体の自転車活用に関する計画として、広島県では、身近な移動手段である自転車の利用促進を更に図るために、自転車の走行環境を整えるまちづくり、スポーツと健康の増進における自転車活用、サイクルツーリズムの推進、及び自転車の交通安全等について、県の関係計画を基に総合的に推進し、豊かで活力ある地域づくりに向けて取り組むため、広島県自転車活用推進計画を策定した。

表1.広島県自転車活用推進計画の概要
出典:広島県[2019]広島県自転車活用推進計画より筆者作成

 次に、尾道市では、平成30年度に策定された「広島県自転車活用推進計画」を基本とした尾道市自転車活用推進計画を策定した(表2)。同市においては、平成11年の瀬戸内しまなみ海道の開通に合わせ、レンタサイクルの運営を開始し、サイクリストの誘客を図ってきた。そして平成24年には台日交流のサイクリングイベントが実施され、現在では、国内外から多くのサイクリストが訪れるようになった。そのような中で、自転車を取り巻く「まちづくり」「スポーツ・健康」「観光」「交通安全」の面から現状や課題を整理し、目標設定したうえで取組みを実施・見直しすることで、自転車のさらなる活用推進を目指している。

表2.尾道市自転車活用推進計画の概要
出典:尾道市公式サイトhttp://www.city.onomichi.hiroshima.jp/(2018年4月1日閲覧)より筆者作成

 次に愛媛県では、自転車活用推進法(平成28年法律第113号)第10条の規定に基づく都道府県自転車活用推進計画として、自転車新文化の更なる拡大・深化に向けて、自転車の活用を総合的かつ計画的に推進するため、平成31年3月に愛媛県自転車新文化推進計画を策定した。計画期間は令和元年度(2019年度)から令和4年度(2022年度)までの4年間で、5つの目標を設定し各種施策に取組む。なお、令和3年(2021年)3月に、社会情勢の変化等を踏まえ、中間見直しを行い、一部改定を実施した。
 次に、今治市だが、同市においても国が定めた計画の実現に必要な地方自治体の役割を明らかにし、地方における総合的かつ計画的な施策の実施により、自転車活用推進計画の実現を図るため、法第11条の規定に基づき「今治市サイクルシティ推進計画」を策定した。計画の実行により、市民、事業者及び行政が協働して自転車の活用推進に努め、交通ルール遵守・マナー向上などによる、誰もが安全に安心して自転車を利用できる環境を整えるとともに、しまなみ海道を核としたサイクリング環境のグローバル化による地域の活性化を図り、もって日本における自転車を活用したフロントランナーとしてのまちづくりを推進し、「サイクルシティIMABARI」の実現を目指している。

 次に、ビワイチサイクリング(琵琶湖一周サイクリング)関連自治体の自転車活用に関する計画についてである。滋賀県では、これまでの同県独自の取組や「滋賀県自転車の安全で適正な利用促進に関する条例」、「ビワイチ推進総合ビジョン」(70)等を踏まえつつ、国・関係地方公共団体をはじめ住民や関係団体など多様な主体から幅広い意見を踏まえ、滋賀県自転車活用推進計画を策定した(表3)。

表3.滋賀県自転車活用推進計画の概要
出典:滋賀県自転車活用推進計画[2019]より筆者作成

 次に、守山市は、同市の幅広い自転車関連施策を一体的に進め、「健康・環境」、「安全・安心」、「道路・交通整備」、「観光・地域経済の振興」、さらには、新型コロナウイルス感染症を想定した「新しい生活様式」の実現を目的に、自転車の活用を総合的・計画的に推進していくため、守山市自転車活用推進計画を策定した。

表4.守山市自転車活用推進計画の概要
出典:守山市自転車活用推進計画[2021]より筆者作成

2024年10月25日金曜日

12.GOOD CYCLE JAPAN

 2016年12月、自転車活用推進法が施行された。この法律は、これまでの規制を主眼とした法律ではなく、積極的に自転車の利用を促進する理念法として制定されたものである。これにより、2018年6月には自転車活用推進計画が閣議決定され、国が地方自治体、企業、民間団体と連携して自転車の活用を進める「GOOD CYCLE JAPAN」という取り組みが開始された。この取り組みは「環境」「健康」「観光」「安全」の4つの分野における自転車の利活用を推進し、日本社会において自転車を利用する「しあわせの良い循環」を作ることを目指している。

 まず、サイクル都市環境の整備について述べる。サイクル都市環境には4つの目標が掲げられている。第一に、街と自転車が共生する安全でやさしい都市環境の創出である。欧米の自転車先進国では、自転車専用の通行空間が整備され、公共交通機関との連携も進んでおり、日本でもこうした交通手段としての自転車利用を可能にする環境整備が進められている。第二に、誰もが安全に走れる自転車専用道路の整備である。全国の地方公共団体に対し、国土交通省が自転車利用環境の整備支援を行っており、自転車車線などのインフラ整備が進められている。第三に、環境問題や渋滞問題の解決を目指すシェアサイクルの普及である。自動車から排出されるCO2削減のためにも、自転車利用が推進され、全国的にシェアサイクルが導入されているが、さらなる利用拡大を図るため、公共交通機関との接続強化やサイクルポートの設置が求められている。これに関連して、具体的な取り組みとして自転車通行空間の整備推進、鉄道駅周辺へのサイクルポート設置の推進などが進行している。

 次に、サイクル健康について述べる。サイクル健康には5つの目標がある。第一に、自転車の日常利用やサイクルスポーツの振興による健康社会の実現である。特に、高齢者の健康維持や生活習慣病の予防に、自転車は負担の少ない運動手段として有効であり、自転車利用の増加が日本人の健康維持に寄与することが期待されている。第二に、サイクルスポーツの普及に不可欠な競技施設の整備である。競技人口の増加に対応するために、国際規格に合致した施設の整備や、身近な練習環境の充実が進められている。第三に、安全に自転車を利用できる環境づくりである。特に、競技関係者の協力を得て、子供たちを対象とした体験イベントが開催されるなど、安全なサイクリング環境の提供が進行中である。第四に、自転車がもたらす身体的・精神的健康効果の促進である。自転車は膝や足への負担が少ない有酸素運動であり、心肺機能や筋力の向上、生活習慣病予防、健康寿命の延伸に寄与するとされる。第五に、自転車通勤を推進し、国民の健康増進を目指すことである。増加する自転車通勤者に対しては、駐輪場の問題解決など、企業側の対応も求められており、広報活動を通じて制度見直しが進められている。

 続いて、サイクル観光について述べる。サイクル観光には2つの目標が掲げられている。第一に、サイクルツーリズムを推進し、日本を観光立国へ導くことである。訪日外国人の増加に伴い、体験型観光への関心が高まっている。日本各地で自転車を活用した観光地域づくりが進行中であり、交通機関におけるサイクリスト向けサービスの充実や、走行環境の整備が進められている。第二に、日本型サイクルツーリズムの確立である。欧州で開催される「ツール・ド・フランス」などの国際大会が観光客を惹きつけるように、日本でも国際的なサイクリング大会を開催し、観光資源としての自転車利用を広げるための支援が進められている。サイクリストが快適に走行できるサイクリングロードの整備や、交通機関との連携が図られている。

 最後に、サイクル安全について述べる。サイクル安全には4つの目標がある。第一に、自転車事故のない安全で安心な社会の実現である。2017年における自転車乗用中の死亡事故の多くは、自転車利用者の法令違反が原因であり、交通ルールの周知徹底が求められている。今後は「自転車安全利用五則」などを活用した交通ルールの周知、自転車運転者講習制度の充実、ヘルメット着用の促進などが進められている。第二に、自転車の点検整備の重要性を訴求することである。自転車の整備不良が原因となる事故が多いため、定期的な点検整備の必要性が周知されている。第三に、「自転車安全利用五則」を活用して通行ルールの認知を図ることである。多くの利用者が自転車の通行ルールを理解していない現状に対応するため、ヘルメット着用の重要性も含めた広報活動が行われている。第四に、交通安全に関する教育の充実を目指すことである。学校での交通安全教育にはシミュレーターの活用や事故再現型の体験教室が取り入れられ、今後もさらに内容の充実が図られている。

 このように、環境、健康、観光、安全の4分野にわたる自転車活用推進計画に基づき、持続可能で安全、健康的な自転車社会の実現が目指されている。

引用参考文献

国土交通省公式サイト,https://www.mlit.go.jp/road/bicycleuse/good-cycle-japan/ ,(2021年10月10日閲覧)

11.ナショナルサイクルルート

 2019年、国土交通省は自転車活用推進法に基づき、自転車を通じて優れた観光資源を有機的に連携するサイクルツーリズムの推進により、日本における新たな観光価値を創造し、地域の創生を図るため、自転車活用推進本部において、ナショナルサイクルルート制度を創設した(図1)。

図1.ルートイメージ
出典:国土交通省『ナショナルサイクルルート』公式サイトhttps://www.mlit.go.jp/road/bicycleuse/good-cycle-japan/ (2021年4月1日閲覧)

 ソフト・ハード両面から一定の水準を満たすルートを対象として「ナショナルサイクルルート」に指定する。将来的には、全国のナショナルサイクルルートのネットワーク構想を検討する。ナショナルサイクルルートの指定要件は、ルート設定、走行環境、受入環境、情報発信、取組体制の5つの観点から設定している(表1)。指定の効果としては、国やJNTO(1)によるプロモーション、社会資本整備総合交付金等により地域の取組に対して重点的に支援、ナショナルサイクルルートとしてのブランド価値の向上、を挙げている。

表1.ナショナルサイクルルートの指定要件

出典:国土交通省『ナショナルサイクルルート』公式サイト

https://www.mlit.go.jp/road/bicycleuse/good-cycle-japan/ (2021年4月1日閲覧)より筆者作成

 2019年11月に第1次ナショナルサイクルルートとして、つくば霞ヶ浦りんりんロード(茨城県)、ビワイチ(滋賀県)、しまなみ海道サイクリングロード (愛媛県・広島県)が指定された(表2)。

2021年1月には、トカプチ400(北海道)、太平洋岸自転車道(千葉県、神奈川県、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県)、富山湾岸サイクリングコース(富山県)の3コースが選定され、審査に入いり5月にナショナルサイクルルートに指定された(2)。

表2.第1次ナショナルサイクルルート

出典:国土交通省『ナショナルサイクルルート』公式サイト
https://www.mlit.go.jp/road/bicycleuse/good-cycle-japan/ (2021年4月1日閲覧)より筆者作成

注釈

(1)Japan National Tourism Organization 日本政府観光局

(2)国土交通省報道発表資料(2021年5月31日)

https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_001455.html

10.自転車活用推進官民連携協議会

 自転車は、環境に優しい交通手段であり、災害時の移動・輸送や国民の健康の増進、交通の混雑の緩和等に資するものであることから、環境、交通、健康増進等が重要な課題となっている我が国においては、自転車の活用の推進に関する施策の充実が一層重要となっている。

 2017年5月1日には、自転車活用推進法が施行され、自転車の活用について、政府として総合的・計画的に推進するため、自転車活用推進本部が創設され、各府省庁が一体となって自転車の活用推進に取り組んでいる。

 自転車の活用推進をより一層推進していくためには、これまで様々な分野で自転車の活用推進に取り組んで来た民間団体同士や自転車活用推進本部が連携していくことが重要である。このため、自転車活用推進本部と自転車に関係する団体とで、「自転車活用推進官民連携協議会」を創設し、統一的な広報テーマの下、皆が一体となって広報啓発活動等を行うことにより、国民に対して、自転車の良さ、交通マナー等についてPRしている。

 同会は、自転車による観光振興、住民の健康の増進、交通の混雑の緩和、環境への負荷の低減等により公共の利益を増進し、地方創生を図ろうとする自治体が連携して、情報交換や共同の取組を進めることで、我が国の自転車文化の向上、普及促進を図るとともに、各地域が取り組む地方創生推進の一助となることを目的としている。以下に協議会構成団体を示す。
表1.自転車活用推進官民連携協議会構成団体
自転車活用推進官民連携協議会公式サイト https://www.jitensha-kyogikai.jp/ 
(2021年4月1日閲覧)より筆者作成

9.自転車活用推進計画

 政府は自転車活用推進法の施行を受け、2018年6月に「自転車活用推進計画」(表1)を制定した。この計画は、自転車活用推進法の基本理念に加え、国の責務や自転車活用の推進に関する基本施策を明らかにし、法の目的に基づき自転車活用の総合的かつ計画的な推進を図るものである。本計画は、我が国における自転車活用推進の基本的な指針として位置付けられている。

 自転車活用推進計画では、「自転車交通の役割拡大による良好な都市環境の形成」、「サイクルスポーツの振興等による活力ある健康長寿社会の実現」、「サイクルツーリズムの推進による観光立国の実現」、「自転車事故のない安全で安心な社会の実現」の4つの目標を掲げ、実施に取り組んでいる。

 2021年3年5月には第2次自転車活用推進計画を閣議決定した。

表1.自転車活用推進計画概要

出典:国土交通省「自転車活用推進計画」より筆者作成

8.自転車活用推進法

 自転車は環境に優しい交通手段であり、災害時の移動・輸送や国民の健康の増進、交通の混雑の緩和等に資するものであることから、環境、交通、健康増進等が重要な課題となっている我が国においては、自転車の活用の推進に関する施策の充実が一層重要となっている。

 このため、2017年5月1日に自転車活用推進法(平28法113)(表1)が施行され、自転車の活用について、政府として総合的・計画的に推進するため、国土交通省に大臣を本部長とする自転車活用推進本部が設置された。

 同法においては基本理念として,自転車の活用の推進が、公共の利益の増進に資するものであるという基本的認識の下、交通体系における自転車による交通の役割を拡大することを旨として行うとともに,交通の安全の確保を図りつつ行われなければならないとされている。また、自転車専用道路、自転車専用車両通行帯等の整備をはじめとする14の項目を基本方針として示し、重点的に検討・実施すべきとされている。

表1.自転車活用推進法の概要

基本理念

・自転車は、二酸化炭素等を発生せず、災害時において機動的
・自動車依存の低減により、健康増進・交通混雑の緩和等、経済的・社会的な効果
・交通体系における自転車による交通の役割の拡大
・交通安全の確保

国などの責務

・国      :自転車の活用を総合的・計画的に推進
・地方公共団体 :国と適切に役割分担し、実情に応じた施策を実施
・公共交通事業者:自転車と公共交通機関との連携等に努める
・国民     :国・地方公共団体の自転車活用推進施策への協力

基本方針

①自転車専用道路等の整備          ②路外駐車場の整備等
③シェアサイクル施設の整備         ④自転車競技施設の整備
⑤高い安全性を備えた自転車の供給体制整備  ⑥自転車安全に寄与する人材の育成等
⑦情報通信技術等の活用による管理の適正化  ⑧交通安全に係わる教育及び啓発
⑨国民の健康の保持増進           ⑩青少年の体力の向上
⑪公共交通機関との連携の促進        ⑫災害時の有効活用体制の整備
⑬自転車を活用した国際交流の促進      ⑭観光来訪の促進、地域活性化の支援

出典:『自転車活用推進法』(2016)より筆者作成

7.日本における自転車関連政策の変遷

 自転車に関する政策は道路の利用方法に応じて変遷してきた(表1)。

 1960年に道路交通法の公布・施行により、自転車は軽車両とされ「車道左側の走行」が原則となった。その後乗用車の普及に伴い交通事故が激増した「交通戦争」を背景に、1970年に自転車の歩道通行を可能にする交通規制が導入され、以降、「自転車歩行者道」の整備等による自動車と自転車の分離が推進された。

 1980年には「自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律」が制定され放置自転車対策や交通事故防止対策などが推進された。

 2007年7月には普通自転車の歩道通行の見直しとともに「自転車の安全利用の促進について」(自転車安全利用五則を添付)が交通安全本部で決定された。

 2011年10月には警察庁は、自転車は「車両」であることの徹底を基本的な考え方として、自転車と歩行者の安全確保を目的とした総合的な対策を通達した。

 2012年11月、自転車ネットワーク計画の作成やその整備、通行ルールの徹底などが進められるように、国道交通省・警察庁が共同で「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」を策定した。

 2013年3月には道交法の一部改正により、「路肩帯の左側通行」の徹底が規定された。

 2016年7月には自転車ネットワーク計画の早期進展、通行空間の早期整備に向け、「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」が改定された。

 このような政策の流れを受け、2016年12月の自転車活用推進法の公布に繋がる。

表1.日本における自転車に関わる政策の変遷


出典:高砂子浩司他[2018]『自転車政策の今後について〜自転車活用推進計画による新たな自転車社会構築に向けて〜』IBS Annual Report 研究活動報告、p43-50、IBS計量計画研究所より筆者作成

6.自転車関連団体

 我が国において自転車の環境を推進する団体として官、民間団体、競技団体、産業関連、研究関連などがある(表1)。

表1.国内の自転車関連団体

出典:筆者作成

5.自転車の貸出方法

 自転車の貸し出し方法についてだが、大きく分類すると「地方型」と「都市型」の2つに分けられる(図1)。「地方型」は、観光地で観光客が自転車に乗って名所を回るためのものである。一方の「都市型」は、さらに3つに分類され、「レンタサイクル」と「コミュニティサイクル」、「デリバリーサービス型」がある。一つ目の、「レンタサイクル」とは、鉄道駅付近に設置された一つのサイクルポート(自転車貸出拠点)を中心往復利用するシステムである。つまり、貸出し返却とも同じサイクルポートで行われる。「コミュニティサイクル」は、「シェアサイクル」とも呼ばれ、街の中に相互利用可能な複数のサイクルポートを設置し、利用者がどこでも自由に貸出や返却できるシステムである。「デリバリーサービス」はスマートフォンのGPS機能を活用し、利用者が指定する場所に自転車を届けたり、乗り捨てたい場所まで取りに来てくれるサービスである。目的別では観光型と日常・ビジネス型に分けられる。















図1.貸し出し方法による自転車の分類
出典:小倉哲也・林恒宏・田村匡[2016]『レンタサイクルの今後の動向に関する一考察‐「うめぐるチャリ」を事例に‐』大阪成蹊大学紀要、p 41‐49より加筆

2024年10月24日木曜日

4.自転車の走行環境

 自転車の走行環境については、道路交通法(1)によって、自転車通行空間の種類(2)、自転車にかかわる主な交通ルール、道路を通行する上での主な交通ルールが定められている(3)

注釈
(1)道路交通法は1960年(昭和35年)に制定され、主に車両の運転者や歩行者が道路において守るべきルールを定めている。第1条目的「第一条 この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。」
(2)自転車通行空間(自転車が通行するための道路又は道路の部分)の種類としては、自転車道、自転車専用通行帯、自転車走行指導帯、路側帯、自転車専用道路がある。
(3)自転車にかかわる主な交通ルールとしては、車道通行の原則、信号機に従う義務、並進の禁止、道路外に出る場合の方法、自転車の横断の方法、進路変更の禁止、踏切の通過、左折又は右折の方法、交差点の通行方法、徐行すべき場所、一時停止すべき場所、夜間のライトの点灯等、警音器の使用、2人乗りの禁止、ブレーキの備付け、児童・幼児のヘルメットの着用、酒気帯び運転等の禁止、片手運転の禁止、交通事故の場合の措置、がある。

3.自転車の役割

 自転車には、個人や企業、地域社会、行政にとってそれぞれの役割がある(表1)。

 個人や企業にとっては、移動手段として手軽であり、歩行よりも快適に遠くまで行くことができ、自動車よりも自然や街並みなどを五感で感じることができ、高齢者には買い物や通院の足として、避難ツールや体力を補完することもできる。健康手段としてはランニングなどに比べ足への負荷も小さく継続的に運動ができる機材でもある。環境手段においては騒音や振動も小さく、CO₂などの排ガスの排出もなく環境にやさしい。経済手段としてはガソリンなどの燃料費がかからず、運動の手段として使えばフィットネスクラブに通うコストもかからない。その他の手段としては通勤通学買い物などの多様な日常の移動手段として活用でき、近年では散歩ならぬ自転車散歩(ポタリング)などのレクリエーション器具としても活用されている。

 地域社会にとっては、公共交通、福祉タクシーなどの控除の軽減、コミュニティのつながり確保の手段、健康手段としては引籠りや安否確認手段、環境手段としては地域の事前環境の保護、経済手段としては地域の賑わいや、中心市街地の活性化の手段、渋滞の緩和、渋滞緩和による経済損失の軽減、その他には地域の見守りや巡回の手段としての活用がある。

 行政とっては、移動手段としては公的負担の削減、日常時の公務移動手段として、健康手段としては医療費、介護費、社会保障費の軽減の手段として、環境手段としては地球、大気、自然等の環境対策施策として、経済手段としては観光振興、地域活性化に寄与する手段として、その他としては災害対策の手段などが挙げられる。(1)

表1 自転車の役割
出典:古倉 宗治[2019]『進化する自転車まちづくり-自転車活用推進計画を成功させるコツ』、大成出版社、p3より筆者改編

注(1) 古倉 宗治[2019]『進化する自転車まちづくり-自転車活用推進計画を成功させるコツ』、大成出版社、p3より筆者改編

1-2.自転車の利用目的と種類

 近年、自転車の利用の目的が多様化している。例えば健康増進、ダイエット(健康志向) 、燃料・交通費・維持費の軽減(節約意識)、災害時の交通手段(公共交通の代替)、観光・スポーツ(レジャー)、ファッション性(トレンド)などが挙げられる。また、テレビ番組や雑誌、などのメディアが自転の楽しみ方を紹介するなど、自転車の利用イメージが変化してきている。

図1 自転車利用の目的

出典:筆者作成

 また、既知ではあると思うが、自転車の定義についてあらためて紹介する。自転車とは ①ペダル又はハンド・クランクを用い、かつ、人の力により運転する二輪以上の車であって、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のもの ②自転車は軽車両であり、車両の一種。但し、自転車を押して歩いている者は歩行者と見なされる。③道路交通法では、自転車のうち、大きさ等の一定の基準を満たすもの(1)を「普通自転車」として定義し、歩道の通行を認めるなどしている(2)。自転車にはロードバイクやマウンテンバイク、タンデムや電動自転車など様々な車種がある(表1)。自転車は走行環境(舗装、自然道、勾配、距離、雪、砂地、街中など)や走行意図(長距離を爽快に走る、自然道を走る、気軽に止まりたい、姿勢を楽に乗りたい、子どもを乗せて走る、気軽に運搬したい、二人で乗りたい、大きな荷物を運びたい、子どもと一緒に走りたい、体力を補完して走行したい、転倒を気にせず安心して走行したい、小さな子どもでも楽しめるなど)により様々な機能を持つ自転車がある。最近では、電動アシスト自転車でもシティサイクル型だけでなく、ロードバイク型やマウンテンバイク型、小径型、折りたたみ型など種類の多様な広がりが見られる。

表1 自転車の種類
出典:筆者作成

注釈
(1)「内閣府令で定める基準」としては、道路交通法施行規則第 9 条の 2 で次のように規定されている。

一 車体の大きさは、次に掲げる長さ及び幅を超えないこと。
イ 長さ 190 センチメートル
ロ 幅 60 センチメートル
二 車体の構造は、次に掲げるものであること。
イ 側車を付していないこと。
ロ 一の運転者席以外の乗車装置(幼児用座席を除く。)を備えていないこと。
ハ 制動装置が走行中容易に操作できる位置にあること。
ニ 歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。

(2))警視庁公式サイト
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/bicycle/menu/rule.html(2021年4月1日閲覧)



1-1.自転車の歴史

 自転車の歴史は1817年にドイツの森を管理していたドライス男爵が発明し、特許を取得したことから始まったと言われている(1)。その頃の自転車はペダルがまだ発明されておらず、2つの車輪を前後に並べ、その間にまたがって地面を蹴って走った。ハンドルで前輪の向きを変えることができ、バランスもとることができた。自転車の発明により早く移動することができるようになり、馬車に比べエサや蹄鉄が不要で経済的に早く移動できるようになった。この自転車は貴族階級の新しい遊びとして流行した。

 その後、クランクやペダルが取りつけられたり、ゴムタイヤが採用されるなど構造の変遷を経るなどして日本に入ってきた。日本においては1870年に竹内寅次郎が自転車製造販売願に「自転車」と言葉が初めて記載されたことが記録として残っている。また、1896年には横浜・国府津間でロードレースが開催された。

 1917年には国内において保有台数が100万台、1950年には1000万台を超えサイクリングが人気になるなど、日本において自転車は急速に拡大していった(表1)。

             表1 自転車の歴史

出典 自転車文化センター公式サイトより筆者作成

注釈
(1)自転車博物館公式サイト, http://www.bikemuse.jp/knowledge/ (2021年4月1日閲覧)

引用参考文献
(1)自転車文化センター公式サイト http://cycle-info.bpaj.or.jp/ (2018年4月1日閲覧)

4-1-4 Bernd H. Schmittによる「経験価値」

  Bernd H. Schmitt(1998)は、エスセティクスマーケティングを「企業やブランドを通じて感覚的経験を顧客に提供し、組織やブランドのアイデンティティ形成を促進するマーケティング活動」と定義した。エスセティクスの語源はギリシャ語「感覚的に知覚される美学・審美観」で、...