2024年11月6日水曜日

4-1-4 Bernd H. Schmittによる「経験価値」

  Bernd H. Schmitt(1998)は、エスセティクスマーケティングを「企業やブランドを通じて感覚的経験を顧客に提供し、組織やブランドのアイデンティティ形成を促進するマーケティング活動」と定義した。エスセティクスの語源はギリシャ語「感覚的に知覚される美学・審美観」で、企業やブランドのアイデンティティの開発・実行にはエスセティクスが不可欠であり、「企業の表現」が「顧客の印象」への至るプロセスにおいては、「スタイル」と「テーマ」が重要なコンセプトである、と指摘している。スタイルとは視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の五感に働きかける特質のことであり、テーマはスタイルに意味を吹き込む中核的なメッセージである。そしてエスセティクスが組織にもたらす利益として「顧客ロイヤリティ」「プレミアム価格」「情報の洪水の突破」「競合からの防御」「生産性(ガイドラインによる組織の方向性の統一)」を挙げている。

 Bernd H. Schmitt(2000)は、前著「エスセティクスのマーケティング戦略」における「エスセティクス」をキーワードとした感覚的経験だけではなく、認知・思考過程を経る個人的な経験、さらに自己表現・帰属性といった社会との関係性の中で得られる経験まで含めて対象領域として拡張している。同著では、マーケティング活動に役立たせる戦略的基盤として、経験価値をSENSE(感覚的経験価値)、FEEL(情緒的経験価値)、THINK(創造的・認知的経験価値)、ACT(肉体的経験価値とライフスタイル全般)、RELATE(準拠集団や文化との関連付け)の5つに分類した「戦略的経験価値モジュール(SEM:Strategic Experiential Module)」を提案している。以下、5つの分類について説明する(表1)。

 「SENSE(感覚的経験価値)」とは、顧客の五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)に直接的に訴えかけることにより、感覚的に生み出される経験価値のことである。前著で詳述した美的な楽しみ(エスセティクス)、あるいは刺激的な興奮を顧客に提供することができる。

 「FEEL(情緒的経験価値)」とは、顧客の内面にあるフィーリングや感情に訴えかけることにより、情緒的に生み出される経験価値のことであり、比較的程度の軽い気分(Moods)から程度の強い感情(Emotions)まで含む。

 「THINK(創造的・認知的経験価値)」とは、顧客の創造力を引き出す認知的・問題解決的な経験を通して顧客の知性に訴求する経験価値のことである。

 「ACT(肉体的経験価値とライフスタイル全般)」とは、肉体的な経験価値、ライフスタイル、そして他人との相互作用に訴える経験価値である。

 「RELATE(準拠集団や文化との関連付け)」とは、集団社会における個人の自己実現への欲求に訴求する経験価値のことである。消費者がお互いに結びつきを感じるユーザー・グループの形成から、消費者が特定のブランドを社会的な中核とみなし、自ら率先してそれを奨励し促進していくというロイヤリティの高いブランド・コミュニティの形成に至るまで広範囲に及ぶ。

表1 5つの経験価値

SENSE(感覚的経験価値) 

視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感を通じた経験

FEEL(情緒的経験価値) 

顧客の感情に訴えかける経験

THINK(創造的・認知的経験価値) 

顧客の知性や好奇心に訴えかける経験

ACT(肉体的経験価値とライフスタイル全般) 

新たなライフスタイルなどの発見

RELATE(準拠集団や文化との関連づけ) 

特定の文化やグループの一員であるという感覚

出典:Bernd H. Schmitt [2000]『経験価値マーケティング』ダイヤモンド社より著者作成

引用参考文献

バーンド・H・シュミット[1998]『エスセティクスのマーケティング戦略』ダイヤモンド社

バーンド・H・シュミット[2000]『経験価値マーケティング』ダイヤモンド社

4-1-3 経験価値の事例

  経験価値を積極的に施策に取り入れている代表的な事例としてはハーレー・ダビッドソンとスターバックスがある。本項ではハーレー・ダビッドソンとスターバックスの事例について解説する。

 ハーレー・ダビッドソンは、1980年代に直面した経営危機からの復活劇はブランド・エクイティの再構築とライフスタイルマーケティングを重視し、顧客の「ハーレー体験」(表1)を経営基盤の根幹に位置付けたことによる。ライフスタイルマーケティングに関しては、日本法人のハーレー・ダビッドソン・ジャパン(以下HDJ)の活動がある。HDJは、顧客接点となる販売店教育を基盤としたライフスタイルマーケティングの環境作りにより、顧客の「ハーレー体験」を支えている。

表1 ハーレー体験:ライフサポートプログラム「10の楽しみ」


出典:日本マーケティング学会[2016]第14回 価値共創型マーケティング研究報告会資料より筆者作成

 次にスターバックスの競争戦略は、単に美味しいコーヒーを提供するだけでなく、店舗を家庭、職場に継ぐ「第3の場所」と位置づけ、魅力溢れる豊かな雰囲気を含めた「スターバックス体験」を提供することである。(長沢ら,2005)
 また、ハワード シュルツ他[1998]はスターバックス体験について、「スターバックスの製品は単にコーヒーだけに留まらない。スターバックス体験と呼ばれるものも、われわれの製品なのである。それは快適で入りやすく、しかも上品で優雅なスターバックスでしか味わえない魅力溢れる豊かな雰囲気に他ならない。(中略)スターバックスのどの店も顧客が見、触れ、聞き、嗅ぎ、味わうものすべてのものに気を配りながら運営されている。感覚を刺激するあらゆるものが、高い基準を満たしていなければならないのだ。絵や彫刻、音楽、香り、外観、そしてコーヒーの味わい。それぞれを通して、『ここにあるものはすべて最高である』というメッセージを顧客の潜在意識に送り届ける必要がある。」(41)と述べている。
 ハーレー・ダビッドソンやスターバックスにおいて、それぞれの企業は単にバイクやコーヒーというプロダクトを販売するということに留まらず、そのプロダクトを購入することを通して顧客が得ることができる経験(体験)をいかに重視して施策を打っているかがわかる。

引用参考文献
長沢伸也編著[2005]『ヒットを生む経験価値創造』日科技連出版社
ハワード シュルツ他[1998]『スターバックス成功物語』日経BP

4-1-2 マーケティング理論としての経験価値と「経験」の概念特性

 長沢ら(2005)は、マーケティング理論における経験価値の捉えられ方の歴史を以下のように解説している。

 1960年代における消費者行動の包括的概念モデルの集大成といわれるハワード=シェス・モデルは、広告、価格などの消費者への刺激とそれに対する店舗や製品ブランドの選択、購買などの顕示的反応、およびその両者を繋ぐ態度、意図といった媒介的反応という3つの側面で捉えようとする「刺激‐生体‐反応(S-O-R)」理論に基づいている。

 1970年代に入ると、消費者行動研究は態度形成、態度変容を中心とした研究の段階に移った。新たな分析視点として1970年代後半以降に台頭してきたのが「消費者情報処理」理論といわれるものである。この理論は、消費者の行動が目的の存在を前提としているが、環境の変化に対して常に一方的・受動的に消費者が反応するというわけではなく、一定の自由裁量を持って環境に主体的に働きかけ、自らの目標達成のために能動的問題解決をしようとする、というものである。

 1982年 E.C.HirschhmanとM.B.Holbrookは、「Hedonic Consumptiom(快楽的消費)」という概念を提唱し、製品使用という「経験」の「multi-sensory(複合的知覚・感覚)」、「fantasy(想像)」、「emotive aspects(情緒的側面)」と関連した消費者行動がいかに多面的(審美性、無形性、主観性など)であるかを論じた研究を行っている。

 また、長沢ら(2005)は「経験」の概念を、先行研究を踏まえ表1のように整理している。

表1 「経験」の概念

出典:長沢伸也編著[2005]『ヒットを生む経験価値創造』日科技連出版社より筆者作成

4-1-1 経験価値が注目される背景

  経験価値が注目される背景として、Bernd H. Schmitt(2000)は伝統的マーケティングと比較しながら、以下の4つの特性を述べ指摘している。

 まず、伝統的マーケティングは、主に機能的特性(Feature)と便益(Benefit)にフォーカスしている。伝統的マーケティングが仮定しているのは、さまざまな市場(産業用品、消費者用品、技術、サービス)の顧客(ビジネス顧客や最終消費者)が、自分たちにとっての重要性に従って機能的特性をウエイトづけし、製品特性の存在を評価し、全体的に最高の効用(ウエイトづけした特性の総和と定義される)をもつ製品を選択することになっている。このフレームワークに適さないものすべては、それがどんな意味なのか概念的理解のないままに、せいぜい「イメージ」効果とか「ブランド」効果と名付けられることになる。あるいは、最悪の場合、「不適切」で「意味のない」誤差、と考えられてしまっている。

 次に、伝統的マーケティングでは、マクドナルドの競合をバーガーキングやウェンディーズなど同じハンバーガー業界と考える。ビザハットやフレンドリーズやスターバックスなど他のファストフードやカフェを競合と考えない。伝統的マーケターにとって、競争は主に狭義の製品カテゴリー内で起こるものと考える。

 次に、伝統的マーケティングでは、顧客を理性的な意思決定者であると考える。例えば意思決定のプロセスとしてニーズの探知、情報探索、代替案の評価、購買と消費といった流れをたどると考える。だが、実際に人はこのようなプロセスでモノやサービスを購入するだろうか?

最後に、伝統的マーケティングは分析的、計量的、言語的である。例えば回帰モデルやポジショニング・マップ、コンジョイント分析などが頻繁に利用される。これらの方法や有益な洞察を与えてくれる状況も存在する。だがそれぞれの手法には限界がある。企業内で調査の目的と機能を考えることが重要なのである。


引用参考文献

バーンド・H・シュミット[2000]『経験価値マーケティング』ダイヤモンド社

4-1 サイクルツーリズムにおける経験価値

 サイクルツーリストは、サイクルツーリズムの経験の過程を通して価値を感じる。本章ではサイクルツーリストがサイクルツーリズムを通してどのような経験をしているのかをBernd H. Schmitt(2000)が述べている5つの経験価値(「SENSE:感覚的経験価値」、「FEEL:情緒的経験価値」、「THINK:創造的・認知的経験価値」、「ACT:肉体的経験価値とライフスタイル全般」、「RELATE:準拠集団や文化との関連づけ」)により明らかにし、サイクルツーリズム固有の経験価値について述べる。

引用参考文献

Bernd H. Schmitt [2000]『経験価値マーケティング』ダイヤモンド社

3-2-4 自然ツーリズム

 菊地(2015)は、自然ツーリズムとは自然+ツーリズムであり、ここでいう自然とは人間の手の加わっていない山や川、草、木など原生な環境のみならず里山や都市の自然も含む。つまり、自然とは人間の手入れの有無よりも視覚的に生物(植物・動物・水・土)などを感じられる感覚的な存在である。と述べている。

 また、観光とツーリズムの違いについては[5-1-1ツーリズム・観光とは]で述べた。以上から自然観光とは自然をみるという行為に重きがおかれた用語である。他方、自然ツーリズムとは行為にこだわらず、自然を「感じられる地」を目的として移動し、その間に行われる一連の行為すべてを指す用語なのである。つまり、自然ツーリズムとは自然観光をも包含したより広い意味を持っている(図1)。


図1 自然ツーリズムの種類
出典:菊地 俊夫他著[2015]『自然ツーリズム学 (よくわかる観光学)』朝倉書店,p2より筆者作成

 菊地(2015)は、自然ツーリズムには多くの形態が含まれる、と述べている(表1)。
最近国内でもインバウンドを対象とした観光コンテンツとしても注目されているアドベンチャーツーリズムは、旅行者が地域独自の自然や地域のありのまま文化を、地域の方々とともに体験し、旅行者自身の自己変革・成長の実現を目的とする旅行形態である。 
 また、エコツーリズムとは、自然・歴史・文化など地域固有の資源を生かした観光を成立させること、観光によってそれらの資源が損なわれることがないよう、適切な管理に基づく保護・保全をはかること、地域資源の健全な存続による地域経済への波及効果が実現することをねらいとする、資源の保護+観光業の成立+地域振興の融合をめざす観光の考え方である。それにより、旅行者に魅力的な地域資源とのふれあいの機会が永続的に提供され、地域の暮らしが安定し、資源が守られていくことを目的としている。

表1 自然ツーリズムの主な形態
出典:菊地 俊夫他著[2015]『自然ツーリズム学 (よくわかる観光学)』朝倉書店,p3より筆者作成

3-2-3 複合施設の重要性

 竹内ら(2018)は自然と文化の複合である複合型観光資源の役割が現代観光において高まっていることも指摘している。例えばフランスの田園風景、郷土景観としての津和野や歴史景観としての妻籠宿は、個々の要素はそれほどの価値があるとはいえないが、全体として一つのまとまりを見せる時、観光対象として極めて強力な誘引力をもつといわれる。

 また、複合型資源を維持するためには、構成要素を個々に保存するよりも、地域全体を全面的に保存対象とする考え方が有効である、と述べている。観光資源については、ストーリー性やテーマ性の設定の重要性が度々指摘されているが、特に複合型資源では、個々の構成要素を結びつけ、一つのまとまりを形成するために必要となる、と述べている。

 複合型観光資源を対象にする事業には、地域やその文化が大きく関係する。例えば、地域の観光まちづくりや、祭りを通じた集客、リゾート事業である。わが国では、歴史的な風洞景観・歴史景観の指定・保存が推進されつつあり、こうした傾向は複合型観光資源としての認識に基づくものであるといえる。

引用参考文献
竹内正人他[2018]『入門 観光学』ミネルヴァ書房

3-2-2 国が保護する自然資源・文化資源

 観光基本法第14条において、国が保護、育成及び開発すべき観光資源について、「私企業の採算において、適切な保護育成及び開発しうるものについては国の施策を要しないし、破壊されても、原状回復の容易になしうるものや、ほかのもので十分に代替しうるものを保護する必要はない」と、国が関与する観光資源を限定している。

 現在、日本の法律で指定されている観光対象となる資源をまとめたのが表1である。この表にみるように、実際に観光以外の目的から保護されている資源が、同時に観光資源であるという性格を有している場合が多い。しかし、それらが必ずしも観光資源として保護を図っているものではないだけに、観光資源に関する施策の複雑さが生じる。現在、貴重な自然は環境省管轄の自然公園法と温泉法、文化財は文化庁管轄の文化財保護法によって指定され、それら保護のもとに一定の利用がされている。世界遺産となると、文化庁を通してユネスコ世界遺産委員会に申請をして、登録の採択が決定される。

表1 国が保護する主な自然資源・文化資源

出典:溝尾 良隆[2009]『観光学全集〈第1巻〉観光学の基礎 (観光学全集 第 1巻)』原書房,p47より筆者作成

3-2-1 観光事業と観光対象

 溝尾ら(2009)は、観光事業には、旅行者、観光対象となる観光資源、旅行者に利便性を提供する観光関連企業の3分野がある、と述べている。さらに旅行が増大するにつれ、観光対象となる資源の保護や旅行者に快適な旅行を保証する行政の役割が加わる。近年、地域住民の役割が増大して、地域住民を加えることもあるが、それは広く観光対象(地域)に含める。

 観光行動は、基本的には観光主体としての観光客と観光客体としての観光資源、さらに観光資源が集積した観光地との関係で成立する。観光者は目的の観光対象に接するために居住地を離れて旅行し、観光対象である観光資源に接して感激し、満足し、再び居住地に戻ってくる。感動、満足が得られる旅行、これは観光の意義の一つであろう。

 観光事業には観光者の旅行をより快適にするために、旅行途中や観光対象地において、飲食や物品販売、宿泊などに対応するサービスが必要とされ、これらサービスを提供する観光関連産業の「観光施設」がある。このサービスのための施設(観光施設Ⅰと呼ぶ)を超えて、宿泊や日常生活の行動である買物、飲食が目的となる旅行もあり、しばしばこれらの施設が観光対象(観光施設Ⅱと呼ぶ)にもなる。このように旅行者の観光目的となる観光客体には、観光資源と一部の観光施設がある(図1)。



図1.観光資源、観光対象、観光施設、観光事業の関係
出典:溝尾 良隆[2009]『観光学全集〈第1巻〉観光学の基礎 (観光学全集 第 1巻)』原書房,p44より筆者作成

 観光地の魅力は、様々な要素から成り立つ。その一つに、「観光対象」を挙げることができる。竹内ら(2018)は前田ら(2015)をもとに表5-1のように整理した。観光資源は、自然観光資源、人文観光資源および複合型観光資源に大別される。自然観光資源の要素は、季節や気候、景観など多様である。人文観光資源は、人間によって生み出された有形・無形の資源である。無形資源のうち、催し物はイベントのことであり、博覧会やオリンピックなども含まれる。複合型観光資源は、自然および人文の複合である。例えば有名な社寺もそれ単体でなく、周辺環境や文化的背景があることで資源となる。特に、最近では複合型観光資源が注目されている。観光施設(サービスを含む)は、宿泊施設や観光難内施設のように、観光客のための施設でもあるが、観光以外のために設けられる施設もある。たとえば、博物館や民俗資料館は、その地域の歴史に関する資料を収集、保存することが目的であり、それらが公開されている施設である。また、レクリエーション施設にはテーマパークも含まれる。
表1 観光対象の分類
出典:竹内正人他[2012]『入門 観光学』,ミネルヴァ書房,p34より筆者作成

 次に、観光資源の分類について、溝尾ら(2001)は観光対象となる資源・施設を表2の通り分類した。まず、人間の力では創造し得ない自然観光資源がある。自然資源は、一度破壊をしたら回復か不可能な代替性の少ない資源であるが、湖沼、滝、自然現象など枯渇性資源としての危険性も秘めている。また、人間が創造した資源を人文資源とした。

表2 観光資源の分類
出典:溝尾 良隆[2009]『観光学全集〈第1巻〉観光学の基礎 (観光学全集 第 1巻)』原書房,p50より筆者作成


2024年11月5日火曜日

3-1-7 観光地の種類と分類

 旅行者は、旅行、観光、レクリエーションの区別は意識していない。溝尾(2015)は、旅行者を受け入れる側の目的地においては、資源と市場との関係による立地特性から、一般に言われる観光地をさらに狭義の観光地、レクリエーション地、そして宿泊地の3区分にする必要がある、と述べている(図1)。観光地はこの狭義の観光地、レクリエーション地、宿泊地のいずれかから出発して、他の要素を強めつつ、別の2観光タイプの特性を併せ持つ総合的な観光地を目指していくことが大切になる。この3タイプの機能を1か所で同時に合わせもつような観光地は、総合的な観光地でありリゾートという。この3タイプの観光地を資源性と立地からすべて1か所で満たすことができるとは限らない。宿泊地であれば、宿泊地から日帰り圏内でレクリエーション活動や観光活動を楽しめるような観光地との連携を図ればよい。

図1.観光地の種類と分類
出典:溝尾 良隆[2009]『観光学全集〈第1巻〉観光学の基礎 (観光学全集 第 1巻)』原書房,p56より筆者作成

3-1-6 観光と観光地の機能

  観光と観光地の機能について観光政策審議会の答申(1982)において、観光の定義について、観光の行動態様は多様であるが、鑑賞・体験型観光、活動型観光、保養型観光の3つに大別され、それぞれに対応する場があるが、その活動の場においてはこの行動態様も複雑に組み合わされたものになるとしている(図1)。

図1.観光と観光地の機能
出典:溝尾 良隆[2009]『観光学全集〈第1巻〉観光学の基礎 (観光学全集 第 1巻)』原書房,p26より筆者作成

3-1-5 観光システムと構成要素

 観光システムは図1のように観光主体の欲求と行動が観光客体に働きかけ、満足を得ることで成立する。その満足度を高めるのが観光事業である。それらの複合的な関係性を通して観光行政が観光促進や過度な開発に対して規制を加えている。白土ら(2015)は観光主体、観光客体、観光事業、観光行政としてその関係と具体的な内容を示している。

観光の構成要素としてまず挙げられるのは観光を行う主体、すなわち観光客(観光主体)である。観光客は、自分が欲するままに観光に出かけられることはまずない。個人的な時間、所得の制約により、行こうとしている観光目的地に行けないことが多々ある。また社会情勢、特に災害、戦争・紛争、疫病等や為替レートの急激な変動によって旅行が制約されることが出てくる。

 次に、観光客の多様な欲求を喚起したり、満足させたりしてくれる対象が、観光目的地であり観光対象である観光客体である。観光対象は魅力的な観光資源や観光施設を指す。観光資源は、自然観光資源と人文観光資源に分けられ、それぞれはさらに細分類させるように、観光対象をその成分・性格などによって区分することが可能である。観光資源は国際的に観光客を引きつける世界遺産をはじめ、観光市場が広域にわたる国立公園のユニークな自然景観や国宝級の建造物等が含まれる。また観光施設には観光対象施設や観光利用施設がある。前者は東京ディズニーリゾートやUSJ、そしてスポーツ施設がその例である。後者はホテル・旅館、レストランのほか、観光目的の交通機関などがある。観光は、観光客という観光主体と、観光対象あるいは観光目的地(観光客体)が結びつく行動である。そして観光主体たる観光客は、みずからが選好した観光対象あるいは観光目的地に対する行動を起こし、その結果満足が得られることを期待している。

 次に、観光事業とは、観光関連の諸施設、目的地までのアクセス・交通機関、自然ないし文化観光対象について整備し、その保全、保護を図るとともに、その利用を促すことによって、経済的、文化的および社会的な効果を上げるようにする組織的な活動である。観光事業には、観光客を受け入れる施設事業にはホテル、旅館、ユースホステル、レストラン等の宿泊飲食施設が含まれる。また、ある地点から観光目的地まで移動するための施設事業には、鉄道、自動車、船舶、航空機、道路、海空港等の交通関連施設が含まれる。また、施設事業には運動施設も含まれ、運動施設には、ゴルフ場、スキー場、スケート場、テニスコート等のスポーツ、レクリエーション施設を含んでいる。施設事業に含まれる観光関連諸施設としては、温泉、公園、園地※1、環境衛生施設等が含まれている。このうち、観光媒体という場合、観光主体と観光対象を結びつける機能を果たしている交通機関そして情報は重要な役割を担っている。特に観光目的地までの空間距離および時間距離を短縮させたのは、産業革命以来の交通機関の飛躍的進歩によってである。例えば、江戸時代のお伊勢参りは江戸(東京)から片道2週間かかっていたが、現在は新幹線と近鉄線を乗り継げば3時間余りでお参り可能となっている。一方、観光情報の伝搬はマスメディア、サテライト通信、インターネットの普及で地球の裏側に存在している貴重で珍しい観光資源を潜在観光者に映像で紹介できるようになり、世界旅行に出かけるきっかけを導引している。

 最後に、観光行政(観光政策、観光促進、観光保護)についてである。観光は、基本的には観光主体(観光客)、観光客体(観光対象)、観光事業(観光媒体)の3つの要素から構成されるシステムである。しかし、観光をより活発に仕掛けるには政府、地方自治体が観光促進のための政策立案および促進策を講じなければならない。また、観光事業者の行き過ぎた開発による環境破壊を防ぐため、地方自治体は観光抑制あるいは環境保護対策を講じることが必要となっている。

図1.観光システム
出典:白土健他編著[2015]『観光を学ぶ』八千代出版,p4より筆者作成

※1 園地 1.自然公園で、公園施設を設けた区域。2.公園・庭園などになっている土地。3.律令制で、口分田(くぶんでん)のほかに、桑や漆を植えるために、私有財産として与えられていた土地。デジタル大辞泉,小学館

3-1-4 観光の側面

  観光という言葉は『易経』の「観国之光」から採られたといわれている。中尾ら(2017)は「観」は「観る」という意味ではあるが、「観る」に留まらず「する」「参加する」「食べる」「泊まる」「学ぶ」などにもつながる「行動」を表していると述べている。また、観光には観光する側(観光者)だけではなく、客として迎える側(観光業、観光行政、市民)の存在を指摘している(図1)。



図1.観光の側面
出典:中尾清[2008]『自治体の観光政策と地域活性化』イマジン出版,p26より筆者作成

引用参考文献
中尾清他編著[2017]『観光学入門』見洋書房,p3

3-1-3 観光の要素

 白土ら(2015)は、観光には構成する様々な要素がある、と述べている(図1)。例えば、風光明媚な自然の景色を観たりなど五感で感じたり、建築物や暮らす人々の衣装や文学作品など文化と触れ合う、現地での飲食や様々な体験、快適な宿泊施設、移動のための交通やお土産としての物産などがある。これらの要素が様々に組み合わさり観光の魅力を作り出している。 












図1.観光の要素

出典:白土健他編著[2015]『観光を学ぶ』八千代出版,p2より筆者作成

 したがって、サイクルツーリズムにおいては風光明媚な自然の景色の中を自転車で走り、現地の特有の飲食物を食したり、民宿やゲストハウスでの宿泊、物産をお土産として購入するなどであろう。


引用参考文献

白土健他編著[2015]『観光を学ぶ』八千代出版,p2

3-1-2 国、国際機関による観光の定義

 観光政策審議会における答申(1970)では、「観光とは、自己の自由時間(=余暇時間)の中で、鑑賞、知識、体験、活動、休養、参加、精神の鼓舞等、生活の変化を求める人間の基本的な欲求を充足せんとするための行為(=レクリエーション)のうちで、日常生活圏を離れて異なった自然、文化等の環境のもとで行おうとする一連の行動をいう」と観光を定義している。

 観光政策審議会における答申(1995)では、観光の定義を「余暇時間の中で、日常生活圏を離れて行う様々な活動であって、触れ合い、学び、遊ぶということを目的とするもの」(図1)と定義している。

 UNWTO(世界観光機関)は、「旅行をして、定住場所以外を訪れるもの、ただし滞在が1年以内のもので、しかも滞在先で報酬を得ることのないようなレジャー目的、ビジネス目的他の目的を持ってなされるもの」と定義している。

図1 観光の定義
出典:中尾清他編著『観光学入門』見洋書房,2017,p3より筆者作成

3-1-1 ツーリズム・観光としてのサイクルツーリズムーツーリズム・観光とは-

 ツーリズム(tourism)の定義について溝尾ら(2009)は広義には「通勤・通学以外のすべての旅行がツーリズム」であり、ツーリズムには、自宅・職場と関係のない地域への一時的な移動、その目的地での活動、目的地において旅行者の欲求を満たす施設・事業体、この3つの意味がある、と述べている。
 また、「ツーリズム」と「観光」の差異について様々な議論があるが、まず「観光」については世界大百科辞典第2版によると「観光という語は、観光行動を指す場合と、関連する事象を含めて社会現象としての観光現象を指す場合とがある。観光行動と解する場合、狭い意味では、他国、他地域の風景、風俗、文物等を見たり、体験したりすること。広い意味では、観光旅行とほぼ同義で、楽しみを目的とする旅行一般を指す。観光に対応する英語はツーリズムtourismであるが、厳密にいえば、ツーリズムの概念は観光より広く、目的地での永住や営利を目的とせずに、日常生活圏を一時的に離れる旅行のすべてと、それに関連する事象を指す。」と述べられており、観光はツーリズムに含まれると述べている。
 ツーリズム、観光、旅行の定義の関係性について溝尾(2009)は「観光はツーリズムの一部」であり、レジャーで移動のあるものをツーリズムとすると提言している(図1)。

図1.観光とツーリズムの関係
出典:溝尾 良隆,観光学全集〈第1巻〉観光学の基礎 (観光学全集 第 1巻),2009, 原書房,p37より筆者作成

2-2-7 スポーツツーリズムに関する関連政策

 2017年に策定された、スポーツ基本計画(スポーツ庁)において、スポーツツーリズムの推進について第3章の「今後5年間に総合的かつ計画的取り組むべき施策」において「2 スポーツを通じた活力があり絆の強い社会の実現」の一つとして位置づけられている(表1)。施策目標としてスポーツツーリズムの活性化とスポーツによるまちづくり・地域活性化の推進主体である地域スポーツコミッションの設立を促進することを上げ、そのため地方公共団体は国のスポーツツーリズムに係る消費者動向の調査・分析やスポーツコミッションの優良な活動事例の情報提供等を活用し、地域スポーツコミッションの設立支援や、海・山・川など地域独自の自然や環境等の資源とスポーツを融合したスポーツツーリズムの資源開発等の取組を持続的に推進する、としている。

表1.スポーツ基本計画におけるスポーツツーリズム

出典:スポーツ基本計画(2017年)

 次に、2011年に、観光庁が主導するスポーツ・ツーリズム推進連絡会議は、国内でスポーツツーリズムを推進するための方針である「スポーツツーリズム推進基本方針」を策定した。同方針で、スポーツツーリズムを以下のように捉えている。『我が国には、プロ野球、Jリーグ、ラグビー、プロゴルフ、大相撲、柔道、体操、公営競技などの国際的に高い評価を受け、既に日本独自の文化となった「観る(観戦)」スポーツが存在する。そして、豊かな自然環境や美しい四季を利用した、スキー、ゴルフ、登山、サイクリング、海水浴、さらに今日では、全国各地の魅力的な都市・地域で開催されている市民マラソンなど、多くの国民が親しむ「する」スポーツが存在する。特に、地域の自然環境を活用したラフティングやトレッキングなどのアウトドアレジャー、海洋国ならではのマリンスポーツやダイビングなどのオーシャンスポーツ、また山岳国の強みを活かしたスキー、登山、ヒルクライム、パラグライダーなどのアウトドアスポーツは、我が国の観光振興において極めて高い潜在力を持っている。さらに、これらの「観る」スポーツや「する」スポーツを「支える」地域、団体・組織やスポーツボランティアが存在する。我が国はアジア有数のスポーツ先進国であり、スポーツを取り巻く環境は他のアジア諸国と比較して優位である。スポーツツーリズムとは、こうした日本の優位なスポーツ資源とツーリズムの融合である。』  
 さらに同方針では『スポーツツーリズムは、スポーツを「観る」「する」ための旅行そのものや周辺地域観光に加え、スポーツを「支える」人々との交流、あるいは生涯スポーツの観点からビジネスなどの多目的での旅行者に対し、旅行先の地域でも主体的にスポーツに親しむことのできる環境の整備、そしてMICE推進の要となる国際競技大会の招致・開催、合宿の招致も包含した、複合的でこれまでにない「豊かな旅行スタイルの創造」を目指すものである。』とも述べている。
 次に、2017年に、観光庁は観光立国推進基本法に基づき、平成29年度~平成32年度(4年間)の新たな観光立国推進基本計画を策定した。スポーツツーリズムは、同計画の第3章「観光立国の実現に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策」の「1.国際競争力の高い魅力ある観光地域の形成」の(二)観光資源の活用による地域の特性を生かした魅力ある観光地域の形成 ⑥温泉その他文化、産業等に関する観光資源の保護、育成及び開発 で触れられている(表2)。

表2.観光立国推進基本計画におけるスポーツツーリズム
出典:観光立国推進基本計画(2017年)

 次に、2014年に、政府は地方創生を目指し『まち・ひと・しごと創生本部』を設置した。
同本部の示した「長期ビジョン」および「総合戦略」では、同本部を設置した背景として国内で2008年に始まった人口減少は今後加速度的に進み、人口減少による消費・経済力の低下は日本の経済社会に対して大きな重荷となると、述べている。この背景を踏まえ、国民の希望を実現し人口減少に歯止めをかけ2060年に1億人程度の人口を確保する、まち・ひと・しごと創生は人口減少克服と地方創生をあわせて行うことにより将来にわたって活力ある日本社会を維持することを目指す、と述べている。今後の具体的な施策の方向性として、地方における安定した雇用を創出する、地方への新しいひとの流れをつくる、若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる、時代に合った地域をつくり安心な暮らしを守るとともに地域と地域を連携する、を掲げそれぞれに対し財政支援や人材育成などの具体的な施策を設けている。

2-2-6 スポーツインフラ訪問型

  都市インフラ(施設)としてのスタジアムやアリーナは、一般的なツーリストアトラクションでもある。ヨーロッパやアメリカの主なスタジアムでは、スタジアムツアーが定期的に行なわれており、多くの一般観光客や社会見学の一環として児童生徒が訪れる。

 またスタジアムやアリーナに付随する、プロスポーツクラブやチームの輝かしい歴史を展示するスポーツ・ミュージアムも、多くのツーリストを引き付けるアトラクションである。例えば、札幌ドームでも同様のツアーやミュージアムもありますし、札幌オリンピックの会場となった大倉山の施設やミュージアムも訪問型施設と言える。

引用参考文献
原田宗彦編[2007]『スポーツ産業論』吉林書院

2-2-5 「みる」スポーツツーリズム

 「みる」スポーツツーリストを引き付けるオリンピックやFIFAワールドカップのようなメガスポーツイベントは、スタジアムやアリーナが整備された大都市で開催されることが多く、山や海へでかけるレクリエーション志向の「する」スポーツツーリズムとは異なる。わが国では、MLBのイチロー選手、ブンデスリーガの香川真司選手、テニスの錦織圭選手のように海外で活躍するスポーツ・セレブ(有名選手)の数が増え、「みる」スポーツ市場がグローバル化するにつれ、海外でのスポーツ観戦ツアーに対する需要が増えている。例えば、2007年にACL(アジアチャンピンズリーグ)で優勝した浦和レッズの応援には、韓国での試合に4000人ものサポーターが乗り込んだ。国内ではプロフェッショナルスポーツでは、プロ野球やJリーグのアウェイゲームや、プロテニス、プロゴルフなどがある。アマチュアスポーツでは国民体育大会や全国高校野球大会、全国高校サッカー選手権大会などがある(表1)。

表1.「みる」スポーツツーリズムの種類

出典:林[2014]を改編

2-2-4 「する」スポーツツーリズム

 「する」スポーツツーリズムには、マラソン大会や各種スポーツ大会に選手として参加する競技志向のツーリズムと、楽しみのためにスポーツに参加するレクリエーション志向のツーリズムなどがある。前者には、ホノルルマラソンやニューヨークシティーマラソンなど、数万人規模のランナーが集う参加競技型イベントへの参加や、野球のリトルリーグからインターハイやインカレまで、多くのアマチュア大会への参加がある。後者には、スキー、キャンプ、ハイキングから冬山登山まで、レクリエーションを目的とするもので、最近では、「アドベンチャーツーリズム」や「エコツーリズム」など、テーマを絞ったアウトドア関連のツーリズムに関心が高まっている(表1)。

表1.スポーツツーリズムとヘルスツーリズムの関係











出典:Hall,C.M. “Adventure,Sport and health tourism”In:Weiler,B.and Hall,C.M.

(Eds)Special Interest tourism.Belhaven Press:London. 1992.p.142


引用参考文献

原田宗彦・木村和彦編著[2009]『スポーツビジネス叢書 スポーツ・ヘルスツーリズム』大修館書店

2-2-3 スポーツツーリズムの種類

 スポーツツーリズムの種類として原田[2010]は「スポーツ参加型」「スポーツ観戦型」「都市アトラクション訪問型」の3領域に分類し、スポーツツーリズムの現状を説明している。さらに、海外から日本を訪れる観光の市場を「インバウンド市場」、日本から海外に出向く市場を「アウトバウンド市場」、国民が国内の移動にともなう市場を「国内市場」と説明している(表1)。

表1.スポーツツーリズムの3つのタイプと3つの市場

出典:原田宗彦編[2007]『スポーツ産業論』吉林書院

2-2-2 国(観光庁)のスポーツツーリズムの定義

  2011年、観光庁が主導するスポーツ・ツーリズム推進連絡会議は国内でスポーツツーリズムを推進するための方針である「スポーツツーリズム推進基本方針」を策定した。同方針で、スポーツツーリズムを以下のように捉えている。『我が国には、プロ野球、Jリーグ、ラグビー、プロゴルフ、大相撲、柔道、体操、公営競技などの国際的に高い評価を受け、既に日本独自の文化となった「観る(観戦)」スポーツが存在する。そして、豊かな自然環境や美しい四季を利用した、スキー、ゴルフ、登山、サイクリング、海水浴、さらに今日では、全国各地の魅力的な都市・地域で開催されている市民マラソンなど、多くの国民が親しむ「する」スポーツが存在する。特に、地域の自然環境を活用したラフティングやトレッキングなどのアウトドアレジャー、海洋国ならではのマリンスポーツやダイビングなどのオーシャンスポーツ、また山岳国の強みを活かしたスキー、登山、ヒルクライム、パラグライダーなどのアウトドアスポーツは、我が国の観光振興において極めて高い潜在力を持っている。さらに、これらの「観る」スポーツや「する」スポーツを「支える」地域、団体・組織やスポーツボランティアが存在する。我が国はアジア有数のスポーツ先進国であり、スポーツを取り巻く環境は他のアジア諸国と比較して優位である。スポーツツーリズムとは、こうした日本の優位なスポーツ資源とツーリズムの融合である。』と述べられている。

引用参考文献

スポーツツーリズム推進基本方針(2011)観光庁

2-2-1 スポーツツーリズムとしてのサイクリング スポーツツーリズムの定義

 スポーツツーリズムは日本で認知されるようになって間もなく、歴史は浅い。従って国内におけるスポーツツーリズムの定義に関する研究や蓄積も少ない。そのような中、欧米ではRuskin(1987)以降、様々な定義がなされている(表1)。

 日本においては、2011年、観光庁が主導するスポーツツーリズム推進連絡会議は国内でスポーツツーリズムを推進するための方針である「スポーツツーリズム推進基本方針」においてスポーツツーリズムの定義について触れられて以降、スポーツ基本計画などでもスポーツツーリズムについて触れられ、地方創生や東京オリンピック・パラリンピック招致決定などとあいまって、にわかに注目されつつある。

表1.研究におけるスポーツツーリズムの定義

出典:工藤 康宏・野川 春夫[2002]『スポーツ・ツーリズムにおける研究枠組みに関する研究』順天堂大学スポーツ健康科学研究 第 6 号,pp183-192

4-1-4 Bernd H. Schmittによる「経験価値」

  Bernd H. Schmitt(1998)は、エスセティクスマーケティングを「企業やブランドを通じて感覚的経験を顧客に提供し、組織やブランドのアイデンティティ形成を促進するマーケティング活動」と定義した。エスセティクスの語源はギリシャ語「感覚的に知覚される美学・審美観」で、...